「いや、お前に彼女が出来たとか、そういうことじゃなくてだな、なんていうか、その、俺は別に女に興味がないってわけじゃなくって、やっぱ高校生ってさ、そういうのがあっても悪くはないっていうか、俺はそういうことに、理解してるつもりで……」

廊下の先に、奥川の姿が見えた。俺にはまだ、彼女なんていない。

「これから理科室?」

「うん」

次のセリフが、庭木のせいで出て来ない。

何を話そうか、必死で考える。

俺がその次に聞くべきことは、「お前は倉庫?」か、「部活は?」の、はずだった。

「鹿島は?」

「えっ?」

「あぁ、いや、違う。何でもない」

奥川に話そうとしているのに、俺は本当に、どれだけあいつを意識してるんだ。

そのことが急に恥ずかしくなって、頬が赤くなる。

ふと見上げた奥川の顔は、俺よりももっと、赤くなっていた。

「べ、別に部活に行くのと、鹿島くんは、関係ないじゃない」

奥川が慌てている。

どうやら、俺の変に意識した発言は、バレずに済んだらしい。

「なんでそこで鹿島くんの話題が出てくんのよ、おかしくない? 鹿島くんは鹿島くんで、もう倉庫に行ってんじゃないの?」

「あ、倉庫って、吉永が使ってんじゃないの?」

「俺が何で使うんだよ、使うわけねーだろ」

「だけど、奥川さんが……」

「それはほら、部員が増えたから」

奥川は、俺の腕に自分の腕を絡めた。

「だってさ、理科室と体育館倉庫だったら、絶対理科室の方がいいに決まってるじゃない。吉永が倉庫なんか、使うわけないよ」

庭木はじっと、俺の腕に絡まる奥川の腕を見ている。

まぁ、相手は庭木だからな。

別に隠すことでもないし。

「色々と事情があんだよ」

部外者には、知られたくない事情が。

奥川が「ねー」と言って俺の顔をのぞき込むから、俺も「なぁ」と言って返事をする。