もうすぐ夏が来るなとか、その前に一学期の期末テストがあるし、宿題で出された現国の問題集、まだやってないなーなんて、あれこれ考えていたら、あっという間に時間は過ぎてしまった。

一向に進まないシリンダーだけが、机に取り残されている。

山崎に送ってみたオンラインゲームの、『お前のデイリーどうすんの? ずっと放置じゃね?』にも、既読はついたが返事はない。

まぁ、自分のデイリーだって、ほったらかしなんだけどな。

もしもアイツらが、年下なんかじゃなくて、同じ2年生だったら、廊下で顔を合わすこともあっただろうし、体育や何かの行事で、一緒になることもあっただろう。

友達の友達とかで話しも出来ただろうし、どこかでちゃんと、話し合う機会だって、あったのかもしれないな。

落下防止のためだとかなんとかで、ほぼ閉めきられてしまった窓枠に、短い鉛筆が1本、転がりこんでいた。

それを拾おうと指を突っ込んでみても、なかなか上手くいかない。

指の先はそこに届きそうで届かなくて、だけど両方の手の指を差し込むのには、耐震補強された窓枠の柱が邪魔していて、俺はつい、それを取ることに夢中になっていた。

「なにやってんの?」

ふいに扉が開いて、現れたのは谷先輩だった。

俺は急いで、両手を引っ込める。

「いえ、別に。どうしたんですか?」

前部長である谷さんは、理科室の中をぐるりと見渡した。

「なんだよ、ここに居んの、お前だけ?」

とっさに上手く切り返せない俺は、言葉に詰まる。

「まぁいいけど」

そのまま谷さんは、シリンダーと設計図の転がった、テーブルの前に腰を下ろした。

「これが、例のニューロボコン参加作品?」

「いえ、違います!」

慌てて隠そうとしたそれを、ひょいと谷さんは取り上げた。

持ちあげた頭上で、俺の拙い図面をじっとながめている。

「うん。でも、悪くはないんじゃない?」

その言葉に、俺は全身の力が抜けるようだった。

「本当ですか?」

俺の目から何かが溢れてきそうになるのを、気づかないフリをする。

谷さんは、目の前にあったシリンダーのスイッチを入れた。

全く動かなくなっているそれと、接続したパソコン画面をのぞき込む。

「うん。本当。接続は、問題ないんだろ?」

「はい、多分」

さっきまで動いていたんだ。

それがなぜか止まってしまった。

「あぁ、なるほどね」

谷さんの指が、キーボードを叩く。