「毎日は行ってないよ。だって、基本は生徒会の方がメインだもん。それに、他の習い事だってあるし」

それと同じようなことを言って、去年まではずっと拒んでいたくせに。

俺が部長になったとたん、奥川は入部した。

「入ってくれたことには、もちろん感謝してるけど」

俺がそう言うと、彼女は少し顔をあからめて、うつむく。

「じゃ、別にいいじゃない」

「うん、いいよ」

春だった季節が、夏に変わろうとしていた。

俺はこの先のセリフを、なんと言っていいのか、ずっと考え続けている。

「他に何か、言うことはないの?」

「え? うん、特には」

彼女は小さくため息をついた。

いつもこうやって、彼女は俺の前でため息をつく。

「じゃあ、もう行くよ」

「うん」

手を振って、階段を勢いよく駆け下りていく、彼女の背中を見送る。

まぁ、別にいいんだけどな。

ちょっと言いたくなったから、言ってみただけだし。

特に気にするような、大事なことでもないし。

俺はさっき彼女のついたため息の、3倍のため息をついてから、階段を上った。

言いたいセリフの続きは、多分分かっているんだけど、どう言っていいのかが、分からないだけなんだ。

それをいつ彼女に伝えればいいのか、俺はずっとそのタイミングを探し続けている。

誰もいない理科室は、少しひんやりとしていた。

結局、自分でやらないことには、どうしようもない。

それは鹿島だって、そうだ。

やると決めた奴が全体を引っ張っていかないと、仲間はついてこないし、物事も先には進まない。

それがどうでもいいことなら、どうでもいいけど、どうでもよくないことなら、どうだってよくはないのだ。

俺はシリンダーの取説と、ネットの動画とを見比べながら、出力の調整に苦心していた。

今ここでそれを調整したところで、本体に取り付けて、発射角度をつけて……なんてやっていると、結局は再調整が必要になことは、分かっている。

だけど、まだ部品としてマシンの一部になっていない、扱いやすいうちに、コイツの調整を出来るようにしておきたかった。

あっちをこうすれば、こっちがこうなるし、こっちをこうすれば、全く予想もしなかった事態が発生する。

あれこれいじくり倒しているうちに、元気よく動き回っていたピストンが、ついに全く動かなくなってしまった。

立ち上がり、窓の外を見る。

ここからは、体育館の一部は見えても、1年のいる倉庫までは見えなかった。

あいつら今頃、なにやってんだろうな。

もう一度、鹿島の考えた企画書を参考に見ようかと思って、やめた。

ため息をつく。