今はもう、誰もがエアコンのスイッチの場所を知っている。

相変わらず山崎は、クラスで一番に登校してきて、今はエアコンのスイッチを、自分で入れる。

教室の端っこと端っこの、指定された席に、俺たちは座っていた。

「おはよー」

庭木も毎朝、なぜか俺に声をかける。

廊下で待ち伏せみたいにしていることもあれば、本当に靴箱で偶然会っただけの時もある。

クラスが分かれたって、友達は友達なんだから、別に構わないんだけど。

ん? ちょっと待て。

庭木は友達か?

まぁ、携帯の番号は交換してるし、普通にグループとかも一緒に入ってたりするから、友達かと聞かれたら、友達だと答えるだろう。

だけど、学校以外の場でしゃべったこともないし、他に遊びに行ったりしたこともないな。

アレ? だけどそれは、山崎も同じか。

家の方向が全然違うから、学校以外で顔を合わせるなんてことは、ほとんどないんだよな。

他のみんなは、別で遊びに行ったりしてるんだろうか。

そりゃまぁ、テスト明けとか、学祭の打ち上げなんかとかは、みんなで集まったりしたけど、きっとそういうことじゃ、ないんだよな。

そんなことをぼんやり考えていたら、いつのまにか昼休みになった。

最近は山崎と一緒に食べることもなくて、なんとなく一人で食べてる。

別にそれが嫌とか苦痛とかいった、そんな風な感覚は俺には一切なくて、ただ時間が来たから弁当箱を開けて、その中の物を口に運ぶ作業をしているだけだった。

そこにそれ以上のものは、何もない。

すぐに弁当を食べ終わった。

「おい、吉永」

誰かと思えば、庭木だった。

別クラスなのに、ガンガン勝手に教室に入ってくる。

俺はお気に入りのフルーツ・オレを買いに行くつもりだったから、そのまま無視して歩き出した。

庭木は着いてくる。

「古文の授業、どこまで進んだ? 次の小テストがさぁ……」

庭木は機嫌良く自分一人で勝手にしゃべっているから、それはそれでよしとする。

俺は自販機に小銭を入れた。

ガコンと音をたてて、黄色い紙パックのジュースが落ちてくる。

俺はそれに、ストローをさす。

「なんだよ、お前。そんな小さい子どもが飲むみたいなヤツ、飲んでんじゃねーよ」

庭木が笑った。

「こんなの、誰が買って飲むんだとか思ってたけど、お前かよ」

俺はさっぱりとした、甘い液体を口一杯に広げる。

うるせー、お前に俺の好みをとやかく言われる筋合いはねーと、言い返してもいいけど、面倒なので黙っておく。

「庭木くーん、いたいたぁ~」

生徒会役員の、不細工な女が駆け寄ってきた。

庭木は照れたように笑って、同じように気持ち悪い笑顔を浮かべて手を振り返すから、コイツらはもしかして、つき合ってんのか?

「じゃあな」

庭木はその女の子のところに駆け寄って、うれしそうに何かを話していた。

俺は紙パックの隅に残った最後のひとくちを、ズズっと吸い上げる。

「よっ、元気か、少年!」

俺の肩を背後からポンと叩いて、駆け抜けていったのは、奥川だった。

なんだよ、あいつら。

俺が飲み終わった紙パックをゴミ箱に投げ込んだら、昼休み終了のチャイムが鳴った。