どこへ向かっていたのか、勝手に動いていた足をとめた。

俺も本当はコンビニに寄って、なにか買ってこようと思ってたのにな。

あいつらの様子を見たとたん、そんな気力も失せてしまった。

どうせ俺の作るマシンになんて、誰も興味ないし、そもそも完成させられるのかも、分からない。

部長って言ったって、実質の部長は俺じゃない。

だったらまぁ、もういいんじゃないかな。

そもそも、ムリするとか、俺っぽくないし。

確かに今の状況は、俺の望んでいた静かな電子制御部だ。

理科室で一人静かに過ごす時間は、悪くない。

自分の気持ちの持ちようで、何もかもが変わるのなら、だったら、それはそれで、いいんじゃないのかな。

なんて、そんなことを考え始めている。

「先輩! 吉永先輩! 部長!」

鹿島の声だ。

振り返りたくもないものを、無視するのもしゃくに障るので、振り返る。

「よかったら、中を見ていってください。まだマシンも、試作機とか言えるような段階じゃなくて、それでもよかったら……」

「だから、自分たちでやるっつったんだから、最後までちゃんと自分でやれよ!」

誰に向かって、誰が言っているんだろう。

そんなセリフが、すらすらと飛び出てくる。

荒げた声に、一番驚いているのは、自分自身なのに。

「出来ると思ったんだろ? やれるから、やってんだろ? 『やらせてください』って、頭下げに来たのは、誰だよ」

俺のよりもずっとずっと立派な図面を、こいつは描いているのに。

「だったら自分でやれよ、やってみせろよ。それが出来ないんだったら、最初からやるとか言うな」

コンビニに行くつもりで理科室を出たはずなのに、俺はくるりと方向を変えて、校舎を駆け上がった。

後ろ手に扉を閉め、すえた薬品の臭いがこもる部屋に、また一人で立てこもる。

黒いテーブルの上に、傷一つない銀色のボディが横たわっていた。

それは戻ってきた俺をあざ笑うかのように、出迎えてくれる。

『お前がバカなんだから、仕方ないんだよ』

そんな声が、脳内にくり返し響く。

俺は、自分でやると言ったんだから、最後まで、自分でやらなくちゃいけない。

誰かの助けとか、そんなことは、関係ない。

たとえ一人でも、出来ないじゃない、やるんだ。

数時間まえ、ここを出て行く前までは、俺の唯一の味方だったはずのシリンダーが、今は挑むべき難しい強敵に思える。

まずは作戦を考えよう。

どうすればいい? 

これは、ゲームで言えば、中ボスだ、中ボス。

そうだ。

仲間が急にいなくなって、パーティが組めない時だってある。

せっかく育てたキャラが、突然消えるなんてのは、よくあるパターンじゃないか。

俺はこの武器を、使いこなさなくちゃいけない。

決意と共に息を吐く。

俺はもう一度、シリンダーの取扱説明書と向かい合った。