もう本当に誰も来ることのなくなった、理科室の鍵を開ける。

なんだよ、1年が大量入部したって言ったって、これじゃあ廃部と変わりないじゃないか。

締めきった理科実験室は、硫黄なのかアンモニアなのか、数種類の何かの薬品が混ざりあったような、独特の臭いがたちこめている。

俺はむき出しのままのシリンダーが放り込まれた棚を開けて、それを取りだす。

床に投げつけてしまいたくなるのを、その先は妄想だけにとどめておいた。

俺は出来ないんじゃない、やる気が起きないだけだ。

シリンダーに添付されている、説明書を広げた。

カサカサと紙を広げる音と、エアコンの稼働音だけが、やたらと響く。

まずは、コイツの調整方法でも、調べてみるか。

そこからの作業は一歩も進んでいないのに、なぜか時計の針だけは、ずるずると先へ進んでいた。

シリンダーの取説は、何度読みかえしても最初の3行までしか頭に入らなくて、途中を読み飛ばした図解の文字も、何を言っているのか、意味が分からない。

結局、どこをどう調整すれば、うまくいくんだ?

俺は取説を読むのを諦めて、立ち上がった。

校庭から、運動部の楽しそうなかけ声が聞こえる。

誰かに相談したくても、話せる相手がいなかった。

シリンダーなんて、くっつけて電気流せば、それでいいと思っていた。

簡単にネジを回せば、何もかも思い通りになると、そう思っていた。

今だって、ちゃんと動いているのに、他に何が必要だというのだろう。

気分転換にコンビニへ行こうと、外に出る。

サッカー部の走るグラウンドの向こうに、プレハブの倉庫が見えた。

両開きの扉が全開にされていて、外から中が見えだ。

数人の生徒が、作業をしているのが分かる。

俺は磁石に引き寄せられるように、そこへと向かった。