「入ってくれたら、いいのにな」

山崎がつぶやいた。

「は? 何言ってんだよ、お前」

「えっ、なんで?」

この男は入部届けを手に取ると、じっくりとそれに目を通した。

「いい奴っぽいし、楽しみだな」

「それ本気で言ってる?」

俺は倒れ込むように、テーブルの上に体を伸ばした。

気疲れのするような後輩なんてゴメンだ。

いままで通り、のんびり気楽に部活ライフを謳歌したい。

「もっと素直で扱いやすそうな奴がいいな。かわいい女の子とかさ」

「女子は無理だろ」

そんな明るく楽しい未来は、俺たちには、ない。

「あいつ絶対性格悪いって」

「そんなの、入ってみないと分かんないだろ」

山崎は入部届けを、ファイルに挟んだ。

「そのための仮入部だろ?」

「そのための仮入部だよ」

着信音が鳴って、奥川から画像が送られてきた。

俺と山崎の、二人だけの写真だ。

「あ、やっと送ってきたよ。ちゃんと管理しとけだってさ」

それを転送で部のパソコンに送る。

山崎がそれをアップして、今日の活動は終了だ。

のんびりと背を伸ばす。

「本気で部の活動内容、考えないとな」

「別にいいよ、このままで」

どうせ内申書に書くためだけの部活だ。

帰宅部だと空欄が埋まらない。

俺たちの三年間を、なかったことにしないためだけの処置だ。

そんな部に、特に活動とか必要ないだろ。

このままここでこうやって、自由な時間が好きなように過ごせれば、それでいい。

俺はその日までは、真剣にそう考えていた。