入れ代わりに、山崎が入ってきた。

「あーあ。また鹿島いじめて遊んでんのかよ」

「そんなこと、してないって」

「あのさぁ、吉永。お前も、『いい先輩』でいたくないの? いい加減に空気読んで、のっかっとけよ」

なんだそれ。

また始まった。

俺は別にあいつを、いじめてなんかいない。

後輩が出来るのはうれしい。

部員が増えるのもうれしい。

だけど俺は、「いい先輩」になりたくて、部長をやっているわけじゃない。

だいたい山崎だって、ニューロボコンへの参加動機は、かなり不純だったはずだ。

今日だって結局サボって、何にもしなかったくせに。

「お前はそういう考え方で、恥ずかしくないのかよ」

「何が?」

だから鹿島みたいな奴らに、バカにされんだよ。

「後輩に媚売って」

その言葉に、山崎の頭に、カッと血が上った。

「お前みたいに怖い先輩面して、偉そうにしてるよりかは、ずっとマシだと思うけどな!」

「はぁ? いつ俺がそんなことしたって言うんだよ」

「いつもじゃないか、ずっとだよ。何が後輩に媚売ってだ、お前のその態度の方が、よっぽど気持ち悪いわ!」

「それはお前の方だろ! 本当はやる気ないくせに、いい顔ばっかしやがって。そんなにいい奴でいたいか、いい先輩ってやつで、いたいのかよ!」

「先輩が後輩の面倒みるのは当たり前だろ? 何言ってんだよ。そこにそれ以外の、なんの理由があるってんだ」

窓の外は暗い。

自分の姿が、ガラスに映って反射する。

「お前こそ、出来もしないくせに一人で参加するとか言いだして、どうするんだよ。その方がずっとカッコ悪いだろ」

山崎ごときに、そんなことを言われる筋合いはない。

てゆーか、山崎にそんな風に思われていたことの方が、ショックだった。

最高潮にイラついた俺に、山崎は腕を組んで見下ろした。

「素直に1年と一緒にやったら?」

「嫌だね。絶対にやらない」

「俺は、1年の手伝いをするって決めたからな。お前の面倒はみないぞ」

「なんだ、それ。お前なんか、いたっていなくったって、大した役にもたたないクセに」

「そーかそーか、そうでしたねぇ。じゃあますます、俺はいらねぇな」

「あぁ、いらねぇに決まってるだろ。自分一人でやった方が、断然早いからな。せいぜい1年の邪魔してろ」

「だから、お前のそういうところ!」

「黙れ!」

舌打ちを残して、山崎が出て行く。

理科室の扉が、乱暴に閉まった。

こいつだけは、俺の味方でいてくれると、信じていたのに!

俺は握りしめた拳を、机に叩きつける。

その衝撃で、買って来たばかりの細い銀のレールが、わずかに宙に浮いた。

くっそ。

こうなったらもう、誰の助けも借りない。

自分一人で、全部やってやる。

俺だって、やれば出来るんだ。なぁ、そうだろ?

もう隠しておく必要のなくなった資材類を、まとめて電子制御部専用の棚に放り込んだ。

ガラス扉を閉めて、鍵をかける。

絶対に、あいつらになんか負けない。

マシンは必ず自分一人で完成させる。

俺は自分で自分にそう誓って、そこを後にした。