「体育倉庫の方って、行ってる?」

部長である俺が、奥川にこんなことを聞くのもおかしな話しだとは思ったけれども、他に会話を続けるための話題が思いつかない。

「山崎くんは、行ってるみたいだよ」

あいつのことはどうだっていい。

調子よくちょこまかと、どこにでもいい顔のできる奴だ。

そんなことを聞きたいんじゃない。

「俺たちもさ、ニューロボコンに出る」

今日は風はあんまりないけど、本当の真っ昼間は少し汗ばむけど、放課後くらいの午後になると、日も落ち始めて、気温もちょうどいい。

もうすぐしたら、どこへ行っても暑くて耐えられなくなるけど。

「俺と、山崎で、新しい別のマシンを作ってさ……」

「山崎くん、なんか気になる女の子でも、1年にいるみたいだよ」

彼女は、へへっと笑った。

だから、山崎のことじゃないって。

「今日は、部活、来ないの?」

「えー、真面目に行かなきゃダメ?」

「いや、別に」

そういえば、前にネットの動画で「ピーヒョロロ」って鳴く鳶の動画を見たけど、あれはどうしたって「ピーヒョロロ」じゃねぇだろ、「ピーピピピ」だ。

彼女はベンチから立ち上がった。

「特に用事がないなら、もう行くね」

「あ、うん」

「じゃ」

どこに行くんだろう。

今日は生徒会もないし、委員会もない。

いつもならさっさと家に帰る曜日だから、多分家に帰るんだろうけど、だったらせっかく入部したんだし、他に用事がないなら、理科室に来ればいいのに。

俺がロボコン出るって、言ってるんだからさ。

ショートヘアの髪が、校舎の角を曲がっていく。

昔は髪を長く伸ばしてたのにな。

長い方の髪もよかったのに、また伸ばさないのかな。

頭の上の空で、何かの鳥がピーと鳴いた。

俺は立ち上がって、校舎の階段を上った。