前日に約束をしておいた待ち合わせ場所に、奥川がやってきた。

学校終わりから部活までの時間、今日は生徒会活動のない日だから、絶対大丈夫。

時間よりやや遅れてやってきた彼女のスカートが、ふんわりと場所を空けた俺の隣に舞い降りた。

「で、何のよう?」

「別に」

そう言ってその場を誤魔化したけど、奥川は特に動じる様子はなかった。

退屈そうに両手をベンチにつき、前を向いて足をぶらぶらさせている。

しまった。

紙パックのジュース、こいつ用に買っておけばよかった。

「俺もさ、出ることにしたんだ。ニューロボコン」

放課後独特の、にぎやかな喧噪が響く。

どこかの運動部のかけ声と、吹奏楽部のラッパの音出し、廊下を駆け抜ける無数の足音。

校庭の上空を、何かの鳥が飛んでいた。

なんの鳥だろう、カラスじゃないだろうし、大きめの鳥だ。

「へー」

彼女が、電子制御部に入部してくれたのは、うれしい。

俺が彼女に対して、あれこれと何かを言う権利はなくて、もともとこの部活にはあんまり興味なかった奴だし、名前をかりるだけで、いいと思っていた。

だから入部しても、全然顔を出さなくてもいいし、真面目に活動しろなんて言わない。

「入部、したんだよね」

足元を一匹の蟻が歩いている。

ちょこまかと触覚を動かして、忙しそうな奴だ。

「そうだよ」

入部届けを出してから、彼女が理科室に顔をだしたのは、取材の時以来、一度もない。

今は1年は体育倉庫の方に拠点を移しているから、俺はそっちの方は、何も知らない。

そうだ、そうだった。