「名前は?」

「鹿島純です」

にっこりと微笑んで、彼は何もないクソださい理科室の中を歩き始めた。

「パソコンは、1台なんですか?」

「1台だからって、なにか文句でもあんのかよ」

コイツ、俺たちをバカにしてんのか。

「弱小部だから、予算がなくて」

俺の発言に、慌てて山崎が答えた。

俺は精一杯の引きつった笑顔を浮かべる。

失言だったことは分かっているけど、こんな頭良さそうなイケメン新入生、うちのような日陰のマイナー部になんて、どうせ入りやしない。

「情報処理のコンピューター室にいけば、もっとたくさんのパソコンが使えるんじゃないんですか?」

「あぁ、だけど、学校のパソコンはスペック低いから」

とっさにそう答えたものの、学校で使っているパソコンの機種なんて、全く記憶にない。

「学校のはネットに繋がってないから、意味ないんだよ。スクールネットにはもちろん繋がってるけど、先生たちに見られちゃう可能性はあるから。基本俺のポケットワイファイを使って、ここのはつなげてるんだ。パッド用のやつ」

山崎は、自分のポケットから小さなルーターを取りだして見せた。

「なるほど」

にっこりと笑う鹿島の態度が、イケメンかつお上品すぎて、余計に腹が立つ。

「冷やかしなら、帰れよ」

どうせバカにしてんだろ、さっさと帰れよ。

こんなくだらない部活なんて、どうでもいいと思ってるような奴に、つき合っているヒマなんかない。

俺がにらむと、彼は真っ赤な顔になって、おずおずと入部届けを取りだした。

「入部、する、つもりはあります」

小さく折りたたまれたそれには、きっちりとした丁寧な文字で、必要事項が全部書き込まれていた。

山崎が受け取る。

「うおっ、マジで? やったな」

俺は即座にそれを奪い取った。

「今はまだ仮入部の期間だから、その間にどうするのか、よく考えてから決めてほしいね」

変に期待させておいて、やっぱりやめましただけは、ゴメンこうむりたい。

「はい。あの、あのロケット、かっこよかったです」

ややうつむき加減のまま、まだ顔の赤い鹿島は、そうつぶやいた。

制服の袖から伸びた白く形の整った手を、ぎゅっと握りしめる。

「失礼しました」

それでも彼は、大人しく教室から出て行った。

扉がきっちりと閉まるのを見届けてから、俺はようやく息を吐き出す。

「やっと帰ってくれたな」

これで一安心。

あいつはもう二度と、ここへは来ないだろう。