正の終了フラグとは結果が適切であることを意味する言葉らしい

実質死亡済み顧問の先生からハンコをもらって、校長の許可もとった。

山崎に規制線を張ってもらって、準備は万端。

観客がやや少ないことはちょっと気になるけど、今はそれは問題ではない。

このあとドカンと増えるからな、大丈夫だ。

今に見とけよ。

俺は片手を上げ合図を送る。

校庭に発射を知らせるブザーが鳴り響いた。

コントローラーの点火スイッチを押す。

着火までのわずかな時間を経て、ふいにロケットの本体が浮かび上がった。

ヒューンという高く軽快な音を立てて、赤い機体が空中に浮かび上がる。

時間にして3秒。

白煙が青い空を横切る。

やがてパラシュートが開き、それはゆっくりと地面に下りた。

「以上、電子制御部のデモンストレーションでした」

パラパラと拍手がわき起こる。

俺と山崎は運動場中央に置かれた発射台に駆け寄ると、さっとそれを持ちあげた。

「やったな!」

「成功だ!」

回収したロケットを握りしめる。

新入生歓迎会の後で行われる部活紹介で、俺たち電子制御部はたった二人となってしまった部活の存続をかけ、一大イベントへと打って出たのだ。

たった一回きり、試射なんて出来ない。

この一回だけが全てだった。

盟友山崎とハイタッチを交わす。

水蒸気と圧縮空気で飛ばす、小学生みたいなペットボトルロケットになんてしたくなかった。

ちゃんと火薬エンジンでロケットを飛ばしたかった。

コレのどこが『電子制御』なのかと聞かれると、ちょっと返答に困るのだけれども。

「ウケたかな」

「ウケたウケた。絶対大丈夫だって」

山崎は力強くうなずいた。

あとは入部届けの紙を持って、理科室の前で待っているだけだ。

3人くらいは、新入生に入ってきてもらいたいな。

まだ3年の先輩たちが名前だけでも在籍しているからいいけど、その先輩たちが卒業してしまえば、本当にこの部活は来年、廃部となる。

生徒会本部に座る奥川真琴と、一瞬目があった。

今回はあいつに世話になった。

火薬をつかったモデルロケットを校庭で飛ばす許可をとるために、一緒になって奔走してくれた。

あとでお礼ついでに、新入生勧誘のサクラもお願いしておこう。

女子部員もいますよーみたいな。

看板娘とするには、今ひとつ頼りないけど。

今回の一番の主役であるモデルロケットを、分かりやすいように廊下に出しておく。

あとは事前に撮影しておいたスクールネット掲載用の画像をあげて、勧誘活動は終了だ。

パソコンを立ち上げた山崎の、キーボードを叩く音が軽快に響く。

校庭では、にぎやかな部活紹介が続いていた。
「なぁ、ついでに去年のエアレースも載せとく?」

彼はタイムラインに、会場のはるか遠くから撮影した自慢の画像をあげた。

「おい、そんなもんあげたって関係ないだろ」

「お前だって工場夜景載せてるだろ」

電子制御部のトップ画は、俺が部長に就任して以来、俺の自慢の工場夜景の画像に変えた。

「前の戦争遺跡の塹壕後よりいいだろ!」

前の部長は一人で山奥に分け入り、苔に覆われたかつての塹壕後を撮影してまわるのが趣味の人だった。

電子制御部である。

「山岳部かワンゲルと間違えられてたんだぞ! 『うちの学校にもワンゲル部ってあったんですね』とか言われて。写真部からも紛らわしいって苦情がきたから変えたんじゃねぇか」

「どうせなら電子制御部らしい写真にしろって言ってんの」

携帯でチェックした画面には、肝心の新歓モデルロケットではなく、ジブコ・エッジ540が並ぶ。

「だから、打ち上げたモデルロケットを、とりあえず上げろって!」

「えーっと、画像、どこやったっけ」

山崎がパソコンの画像ファイルを探す。

オンラインゲームの、美少女キャラばかりのフォルダーだ。

「んなとこに入れておくから、分かんなくなるんだって」

「お前の携帯からこっち送って」

仕方なく自分の画像ファイルを探す。

俺の中に保存されているのは、モンスターを狩るゲームの、お気に入り最強モンスターの画像ばかりだった。

「あれ? どこやったっけ」

「おいおい部長、しっかりしてくれよ」

山崎が笑っている。

クソ、部員が二人しかいないんだから、副部長であるお前にだって、しっかりしてくれてないと困るんだよ。

発射に失敗してもいいようにと、前撮りした画像だ。

赤いロケットを真ん中に、顔出しが正義とばかりに、二人でにっこり笑って写真を撮った。

それを奥川に送ってもらって、どこに保存したのか……。

「ない」

「どうすんの?」

「もう一回、奥川に送ってもらうか」

携帯でそのまま連絡をいれる。

数分後には、画像が送られてくるはずだ。

奥川なら、それくらいのことはやってくれる。

画像はきっと彼女の携帯の中に保存されていると信じている。

それは間違いない。

制服のポケットに携帯を戻した。

ガラリと理科室の扉が開く。

「電子制御部って、ここですか?」

現れたのはスラリと背の高く、明らかに男前に分類されるタイプの奴だった。

この陰湿な理科室に場違いなこと、この上ない。

俺と山崎は顔を合わせた。

「え、何の用ですか?」

生徒会本部にこんなのいたっけ。

新歓のあとの片付けは、今回は各部活からの動員はなかったはずだ。

「えっと、見学に来たんですけど」

ここは理科実験室。

流しのついたテーブルの6台が床に固定されていて、同じように固定された椅子が並ぶ。

棚にはビーカーとか試験管なんかが置かれているが、普段は鍵がかかっていて開けることはできない。

電子制御部に許されているのは、準備室の棚一つと、理科室の棚一区画分だけだ。

部員は俺と山崎の二人のみ。

延長コードで繋がった、型落ちの古いノートパソコンの画面だけが、唯一光っている。
「あぁ、どうぞどうぞ、見ていって下さい」

慌ててそう応えたものの、どこをどう見学させればいいんだ? 

ここにはお前に似合うようなものは、何一つないぞ。

ほのかに薬品の臭いが漂う部屋に、読者モデルのような清潔感漂う、正攻法のイケメン高校生が立っている。

お前が見に行くべき場所は、ここじゃないだろう。

身長180㎝は越えているであろう侵入者の彼は、ぐるりと辺りを見渡した。

「普通の理科室で、活動をされてるんですね」

「あぁ、まあ。そうですけど」

山崎が「新入生ですか?」と聞いたら、彼は「はい」と答えた。

俺は部長として、活動のアピールと案内をしなければならないところだが、しまった、そこまで考えてなかった。

「今日は新歓だから、いつもならもっと色々やってんだけどな」

「エロゲーとか、格闘ゲームな」

「なにせ部員の確保に苦労してるから、仲間がほしくって」

「オンラインで繋がるから必要ねーとか言ってただろ」

「この電子制御部の部長として、やれることはなんでもやっていくつもりなんだけどね」

「部長決めじゃんけんで負けて、ごねてたくせに」

俺は山崎を振り返った。

この男は、新入生を勧誘しなければならないという大事な時に、余計なコトばかり言って足を引っ張る。

何にも分かってない。

「じゃんけんで負けて、3回勝負から5回勝負にかえて、2回やっても負けて、泣く泣く部長になったくせに」

この場の空気をちゃんと読めよ! 

俺が言い返そうとした時、その1年の彼は、俺たちを仲裁するかのように割って入った。

「今は、部員はお二人だけなんですか?」

その大人びた風な対応に、ちょっとイラっとする。
「名前は?」

「鹿島純です」

にっこりと微笑んで、彼は何もないクソださい理科室の中を歩き始めた。

「パソコンは、1台なんですか?」

「1台だからって、なにか文句でもあんのかよ」

コイツ、俺たちをバカにしてんのか。

「弱小部だから、予算がなくて」

俺の発言に、慌てて山崎が答えた。

俺は精一杯の引きつった笑顔を浮かべる。

失言だったことは分かっているけど、こんな頭良さそうなイケメン新入生、うちのような日陰のマイナー部になんて、どうせ入りやしない。

「情報処理のコンピューター室にいけば、もっとたくさんのパソコンが使えるんじゃないんですか?」

「あぁ、だけど、学校のパソコンはスペック低いから」

とっさにそう答えたものの、学校で使っているパソコンの機種なんて、全く記憶にない。

「学校のはネットに繋がってないから、意味ないんだよ。スクールネットにはもちろん繋がってるけど、先生たちに見られちゃう可能性はあるから。基本俺のポケットワイファイを使って、ここのはつなげてるんだ。パッド用のやつ」

山崎は、自分のポケットから小さなルーターを取りだして見せた。

「なるほど」

にっこりと笑う鹿島の態度が、イケメンかつお上品すぎて、余計に腹が立つ。

「冷やかしなら、帰れよ」

どうせバカにしてんだろ、さっさと帰れよ。

こんなくだらない部活なんて、どうでもいいと思ってるような奴に、つき合っているヒマなんかない。

俺がにらむと、彼は真っ赤な顔になって、おずおずと入部届けを取りだした。

「入部、する、つもりはあります」

小さく折りたたまれたそれには、きっちりとした丁寧な文字で、必要事項が全部書き込まれていた。

山崎が受け取る。

「うおっ、マジで? やったな」

俺は即座にそれを奪い取った。

「今はまだ仮入部の期間だから、その間にどうするのか、よく考えてから決めてほしいね」

変に期待させておいて、やっぱりやめましただけは、ゴメンこうむりたい。

「はい。あの、あのロケット、かっこよかったです」

ややうつむき加減のまま、まだ顔の赤い鹿島は、そうつぶやいた。

制服の袖から伸びた白く形の整った手を、ぎゅっと握りしめる。

「失礼しました」

それでも彼は、大人しく教室から出て行った。

扉がきっちりと閉まるのを見届けてから、俺はようやく息を吐き出す。

「やっと帰ってくれたな」

これで一安心。

あいつはもう二度と、ここへは来ないだろう。
「入ってくれたら、いいのにな」

山崎がつぶやいた。

「は? 何言ってんだよ、お前」

「えっ、なんで?」

この男は入部届けを手に取ると、じっくりとそれに目を通した。

「いい奴っぽいし、楽しみだな」

「それ本気で言ってる?」

俺は倒れ込むように、テーブルの上に体を伸ばした。

気疲れのするような後輩なんてゴメンだ。

いままで通り、のんびり気楽に部活ライフを謳歌したい。

「もっと素直で扱いやすそうな奴がいいな。かわいい女の子とかさ」

「女子は無理だろ」

そんな明るく楽しい未来は、俺たちには、ない。

「あいつ絶対性格悪いって」

「そんなの、入ってみないと分かんないだろ」

山崎は入部届けを、ファイルに挟んだ。

「そのための仮入部だろ?」

「そのための仮入部だよ」

着信音が鳴って、奥川から画像が送られてきた。

俺と山崎の、二人だけの写真だ。

「あ、やっと送ってきたよ。ちゃんと管理しとけだってさ」

それを転送で部のパソコンに送る。

山崎がそれをアップして、今日の活動は終了だ。

のんびりと背を伸ばす。

「本気で部の活動内容、考えないとな」

「別にいいよ、このままで」

どうせ内申書に書くためだけの部活だ。

帰宅部だと空欄が埋まらない。

俺たちの三年間を、なかったことにしないためだけの処置だ。

そんな部に、特に活動とか必要ないだろ。

このままここでこうやって、自由な時間が好きなように過ごせれば、それでいい。

俺はその日までは、真剣にそう考えていた。
無くした画像を送ってくれた奥川に、お礼を言わなければならない。

そう、これは決して口実などではなく、ましてや作戦なんかでもない。

当然の義務であり、礼儀なのだ。

彼女もそれは、きっと分かっている。

俺はその翌日、廊下で奥川を待った。

俺の方から声をかけてやらないと、なかなかあいつの方からは話しかけてこないから、仕方がない。

俺だって恥ずかしいけど、きっとそれ以上に、奥川にはもっと恥ずかしいだろうから、これは男の俺がやるべき仕事なのだ。

朝の靴箱で彼女を待つというのは、とても緊張する。

誰かに見られたいような、誰にも見られたくないような、うっかり見られて、冷やかされたりしたいような、したくないような……。

「あ、おはよ」

人混みの中から現れた彼女に、声をかける。

「おはよ」

奥川はそれを何ともないような顔で見上げて、俺の真横を素通りした。

「あ、あのさ、昨日の画像、ありがと」

「え? あぁ」

「やっぱお前、持ってたんだな。すぐに消去したかと思ってたけど」

返事はない。

歩く速度に全く気の迷いのない彼女の歩調に合わせて、俺も足を必死に動かす。

「助かったよ。あれがないと、新歓のイベントが失敗するところだった。学校のSNSで見たい奴とかもいただろうし」

無言で階段を上る彼女の後ろを、俺は追いかける。

「早速なんだけど、一人1年が見にきてくれてさ」

「へー、それはよかったね」

廊下の角を曲がる。

教室が目の前だ。

去年は同じクラスだったけど、今年は違うから、このまま中には入れない。

どうやって彼女を引き留めようかと考え始めた瞬間、くるりと奥川は振り返った。

「物好きもいるもんだね」

「お、お前も見に来いよ! ほら、廃部寸前だから、入部頼むって、ずっと俺、お願いしてるし。今年から俺が部長になったし、だからそんなヘンなこととか、ヤナこととかもさせたり、やったりとかしないからさ、これを機に……」

「いや、それはいい。じゃ」

シャンプーの香る短い髪に、スカートが翻る。

待ってくれと手を伸ばして引き留めないのは、俺の方だって、話すことはもう終わったからだ。

これ以上、彼女に言うべきことは何もない。

向こうにないなら、俺にもない。

伸ばそうとしたその手を、本当に伸ばさなくてよかった。

高鳴る胸の動悸がやかましい。
「はいそこ、邪魔なんですけど」

そんな俺の背後から、ムカツク野郎の声が響いた。

生徒会長の庭木佐久馬だ。

いかにも真面目ですっていうような堅物で、背はそれほど高くはないけど、ガタイはいい。

奥川のまわりをいつもちょろちょろしている、ウザイ奴だ。

「お前、部長になったんだろ? ちゃんと自覚持ってしっかりやれよ。画像送れってメッセ来た時、俺の隣で奥川がキレてたぞ」

色々とカチンと来るセリフだが、ここは大人の俺が華麗にスルーしておく。

こういうのは、相手にした方が負けだ。

「まぁそれでも、なんだかんだ言ってちゃんと保存しておいてくれてるところが、アイツらしいけどな。普通とっとかないだろ、そんな写真」

俺と奥川は小学校からの幼なじみで、親も公認の仲だ。

母親同士も仲がいいから、小さい時はしょっちゅう一緒に遊んでいた。

「そんなの、偶然に決まってるだろ。消すの忘れてたか、それ以上に、別に何にも意識してなかっただけじゃないのか」

「後でまた、お礼言っとかないとな~!」

ワザと奥川にも聞こえるような大声を出す。

庭木の顔が、ムッとゆがんだ。

「じゃ、そういうことで」

何がそういうことなのかは、言った俺にも分かってないけど、庭木が不愉快に思ったのなら、それで俺の勝ちだ。

意気揚々と自分の教室に戻る。

自分の席に座って、全身の空気を吐き出した。

奥川とクラスが離れたことは残念だけど、こういう緊張から解放される瞬間があるのは、ありがたい。

俺の今日の1日は、もうこれで終わったようなもんだ。

本日最大のミッションをやりとげた俺にとって、残りの時間は部活の始まる放課後までの、暇潰しに過ぎない。

やっぱり奥川には、今年こそ、今度こそ、入部してもらおう。

名前だけでもいいから、何でもいいから、彼女とつながりを持っておきたかった。

そうすればまたすぐに、こうやって話しかける口実が出来る。

全くの心配とか不安とかはないけど、庭木の存在は気になる。

もう一度ため息をつく。

顔を上げたら、のんきな顔をした山崎が、遅刻寸前で教室に入ってきた。

俺はそんな彼の存在にほっとすると、そこに駆け寄った。
授業が終わり、適当にクラスの友達としゃべって、ある程度の時間を潰しておいてから、俺はさらに残りの暇を潰すために、廊下を歩いた。

3階にある理科室、その窓からながめる景色が、何よりも好きだった。

そこで飽きるまで街を見下ろしてから、家に帰る。

その静かで穏やかな時間が、俺のその日の嫌なもの全て浄化してくれるような気がした。

いつもならシンとして冷たい廊下の奥に、今日は灯りがついている。

外から中をのぞくと、背の高い鹿島の横顔が一番に見えた。

俺は勢いよくドアを開ける。

「なんだ、お前ら!」

鹿島の周りには、真新しい制服を着た、数人の生徒が群れていた。

「クラスの友達と、一緒に見学にきました」

その後ろから、ひょっこりと山崎が顔を出す。

「よっ、遅かったな」

クラスの友達って、まだ学校が始まって一ヶ月も経たないのに、どうしてそんな人間を『友達』って呼べるんだ。

その感覚が俺には分からない。

鹿島は山崎に、何かの機械部品の説明をしている。

俺はそれを横目に見ながら、実験台の上に鞄を置いた。

山崎は笑っている。

鹿島がうれしそうに赤らめた頬で「はい!」と返事をすると、この二人の周囲に生け垣を作っている新入生どもも笑った。

俺はオンラインゲームのログをチェックしたいのに、唯一の癒やしであるその黒いボディーのパソコンは、強靱な人垣要塞の中心にあった。

簡単には近寄れない。

山崎がようやくそこから抜けだしてきて、窓の外を眺めていた俺の隣に立った。

「鹿島な、あいつ、今年から始まる、ニューロボコンの高校生の部に出るつもりなんだってよ!」

「はぁ? バカじゃねぇの」

高専だけに出場が限られていた有名なロボット競技の、一般校を対象にした大会が、今年試験的に開催されるという話しは聞いていた。

去年の部長だった谷さんが、そのチラシを持ってきた。

「あんなハイレベルの難しい大会、だから高専に限ってたのに。何にも知らない普通科のお遊び部が参加したって、どうにかなるもんじゃないだろ」

谷さんの持ってきた募集要項を見た。

ルールブックの内容が難しすぎて、途中で読むのを諦めた。

何が一般校にも参加条件を解放だ、ハードルが高すぎて、全然解放なんかされてない。
「ロボコンに出たいんだったら、入る高校間違えてるって、教えてやれよ」

俺がそう言ったら、山崎は笑った。

「ま、お前ならそう言うよな」

「お前だって、谷先輩から声かけられた時、やる気ないって言ってただろ」

バカらしい。

当たり前の話しだ。

あの内容の難しさが分からないことの方が、出場うんぬんの前に、致命的だ。

俺はため息をついて、窓の外を見る。

鹿島たちは、4月に発表されたばかりの今年のルールブックを広げて、なんだかんだと無駄なアイデアを出しているようだった。

「てゆーか、まだ正式に入部が認められたわけじゃないのに、なに盛り上がってんだろうな」

「え? あいつら全員、入るんじゃないの?」

「仮入部期間は正式な部員じゃないだろ。改めてちゃんと入部届け書かないと」

「あぁ、まぁな」

山崎は頭をぼりぼりと掻く。

俺は当然に当たり前のことを言っている。

それまでにニューロボコンへの参加とか、バカみたいな夢を諦めてくれないかな。

じゃないと、あんなのが全部入部してきて、熱く語りだしたりしたら、うっとうしくて仕方がない。

「ま、仮入部の間に、色々考えたらいいよ。うちが出せる部費なんて限られてるし、つーかほとんど予算ないし。俺、ああいう熱血系は苦手なんだよね、分かるだろ?」

俺がそう言ったのに、山崎はヘンな顔で笑った。

コイツなら、俺の気持ちを分かると思ったのに。

山崎はすぐに賛同もしてくれず、うつむいたままだった。

理科室のドアがガラリと開く。

「うわ、どんな奇跡が起きてるわけ?」

入ってきたのは、奥川だった。

「どうしたの? こんなに人口密度が高いのって、初めてじゃない?」

奥川の言葉に、侵入者たちは笑った。

「はいコレ、年間活動報告書。取りに来てないの、あんたんとこだけだよ」

奥川はなんだかんだと文句をいいながらも、結局は俺たちが困らないように、ちゃんとしてくれる。

「あぁ、ゴメンゴメン悪かった」

へへっと笑って誤魔化したら、彼女は呆れたように息を吐く。

「もう2年生になって、正式な部長になってるんだから、そろそろそういう手は通用しないからね」

「はいはい、すみませんでした」

彼女の黒く短い髪の先が、わずかに頬にかかっている。

彼女はゆっくりと振り返って、鹿島と目を合わせた。

「キミは新一年生? ここに入部するの?」

「はい。そうです」

部長の俺が許可したわけでもないのに、もう勝手に入ったつもりになっている。

まぁ、入部希望者を拒否することは出来ないから、もし入部してきたとしたら、自分から出て行ってもらうしか、ないわけだけど。

正の終了フラグとは結果が適切であることを意味する言葉らしい

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