「ずっと我慢して見てたけどさ、お前らには無理だって。そんなレベルじゃないもん。ヘタに手を出して失敗するより、さっさとあきらめて、自分たちの身の丈にあったものの方が、いいんじゃないのか?」

「それは、具体的にどういうことですか? 他に、どんな大会があります?」

俺は鹿島に言ってるんじゃない。

無能な『その仲間たち』に、鹿島の足を引っ張るな、という意味で言っている。

しばらくの間があって、鹿島は続けた。

「俺は、本気でニューロボコンに出たいと思ってるし、どんなにダメでも、出るだけは出るつもりでいます。ここにいる連中は、みんな同じように思っています。だから、あきらめるつもりはありません」

だからどうして、俺が悪者みたいな扱いになってしまうんだろう。

俺はこんなにも、色々と考えてやってるのに!

「マジか、鹿島。お前も結構アレだな。そんなんでこれから……」

「ねぇ、分かった!」

奥川が割り込んだ。

「確かにこれだけ人数が増えたから、ここじゃ狭い。火気もあるし、危険だし、安全の確保も必要よね。吉永くんの言うことも、一理ある」

奥川と山崎は、目を合わせた。

「ちょっと、やり方を考えようよ。せっかく予算が下りてるんだし、このまま終わらせるのも、カッコ悪いじゃない? ダメで元々なんだから、やれるだけのことはやってみようよ。そういうつもりで、他のみんなも、ここに集まったんでしょ」

彼女のおかげで、この場の空気がわずかに緩んだ。

「なんか方法でもあんのかよ」

「それを今から考えるんじゃない」

1年軍団から、ため息が漏れる。張り詰めていた緊張が、ほころび始めた。

「今日はもう帰ろう。基本設計も申し込みも済んでないのに、何かを作り始めようってのが、気が早かったのよ」

「だろ? だから俺は、その計画性のなさを……」

奥川が俺をにらんだ。

ちょっと黙ってろという強力ビームに、俺は言葉を失う。

鹿島は奥川を見下ろして、何かを言おうとした。

それも彼女は、黙って制する。

右手を、軽く鹿島の腕に置いた。

「今日はもう、帰ろう」

「あぁ、そうだそうだ。さっさと帰れよ。戸締まりと電気は、俺がしといてやるからさ」

1年軍団は、いそいそと片付けを始めた。

山崎は奥川に話しかける。

そこに鹿島も加わった。

何を相談しているんだろう。

気にはなるけど、絶対にこっちからは聞きたくもないし、本人たちから直接言ってくるまでは、知りたくもない。

パソコンの電源を、シャットダウンする。

片付けを終えた鹿島が、自分の鞄を手に取った。

「おい、鹿島」

その声に、ちゃんと鹿島は振り返る。

「頑張れよ」

鹿島は無言のまま、頭だけを下げた。

通学鞄の他に、部活用の資材や資料の入った手提げ袋を引きずる。

俺も急いで、帰り支度を始めた。

「なぁ、さっきは助かったよ。俺だって、別に空気悪くしたいわけじゃないからさぁ」

山崎と奥川は、何かを一生懸命にしゃべっている。

俺が話しかけても、山崎は「うんうん」と首を縦に振るだけで、奥川との話をやめるつもりはないらしい。

二人は並んで廊下に出た。

俺が戸締まりを確認し、電気を消して追いかけたときには、もうそこには誰も残っていなかった。