山崎のその言葉に、再び俺の頭にカチンと血がのぼった。

「そうなりたいとか、なりたくないとか、そういう問題じゃねーだろ! お前のそういう態度が気に入らねぇっつってんだよ!」

「だから一体なんなんだよ!」

「お前になんで、それが分からないんだよ!」

「あぁもう、うるさいなぁ!」

声を荒げる。

不機嫌にイライラして、横を向き腕を組む。

山崎は初めて、俺に腹を立てた。

「お前はお前で好きなようにしろよ。俺は俺で、勝手にやるからな!」

バタンと勢いよく扉を開け、山崎は準備室を出て行く。

いつでもほこりっぽいこの部屋に、空気の層が舞った。

すえた薬品のにおいが、ガラクタばかりの部屋で拡散する。

「待てよ、どこ行くんだよ!」

俺もすぐに、その後を追った。

「もういいよ。気分悪いから、帰る」

山崎は、理科室を出て行った。

自分の意思で。

自分の足で。

俺に背中を向けたまま、彼はここを出ていってしまった。

残っていた1年たちが、不安そうに、俺を批難するように、見ているクセに見ていないようなそぶりで、見ている。

だから、なんでこんな連中と仲良くしようとしたんだよ。

俺は肌に感じるヒリヒリとした視線を受けながら、ため息をつく。

山崎と同じ的班に分けられた1年を、ほったらかしにしたまんまだ。

どうするつもりなんだ。

そんな中途半端なことをするなら、最初からやらなければいいのに。

こうなることは、どうせ分かっていた。

放置するラインと、相手にするラインとの規準があいまいで、俺には今の山崎の行動が、本当に理解出来ない。

静まりかえった教室で、奥川と目が合った。

「お前、なんでまだここにいるの?」

「いちゃダメ? 私、正式にここに入部したんだけど」

「えっ?」

驚いた俺に、彼女はため息をついた。

「まとめて入れておいた入部届け、部長さんは、まだ見てもないのね」

慌てて書類の入った引き出しを開ける。

そこにはすでに、顧問の印鑑も押してあった。

「よかったね、部活、消滅しなくて」

ツンと澄ました奥川も、やっぱり何にも分かっちゃいない。

全くもって平然とした表情のまま、読んだってどうせ、ロクに何にも分からないであろう資料と、電子部品のカタログを広げている。

「お前ホント、クソだな」

1年どもの空気が、完全に奥川の味方をしている。

俺の場所だったこの空間は、もはや完全にアウェーと化した。

なんだこれ。

こんなのやっぱ、絶対おかしいだろ。

このままここに居つづけると、誰かに何かを言われそうな気がして、俺は薄暗くなり始めた廊下に、逃げるように飛び出す。

「俺も今日は帰るわ」

奥川のバカ。

山崎のバカ。