試合が終わって、最終決戦が始まった。

リーグ戦で戦った上位の争い。

白熱した試合に、応援の声も跳ね上がる。

最終戦非出場の俺のところに、再び庭木がやって来た。

「足くじいたぁ~。もう痛くてやってらんねぇ」

ウソつけ。

ずっと外野で立ってただけのクセに。

そうしてまた、なぜか俺の隣に腰を下ろした。

なんでコイツは、ずっとここにいるんだろう。

庭木は俺の隣で、ずっと一人でブツブツ何かを言っていたが、俺は全く聞いていなかった。

ただ純粋に、盛り上がるドッチボールの試合を、遠くから見て楽しんでいる。

授業終了間際の10分前になって、女子チームが戻って来た。

「また庭木くん、サボってるぅ~」

生徒会メンバーの、ろくでもない女子が、にやにや笑いながら話しかけてきた。

一生懸命かわいくしようとしているのは認めるが、世の中には、受け入れるしかない運命というものもある。

「サボってねーよ、俺は見てるの。ちゃんと試合にも出たって」

「はいはい、生徒会長さん、お疲れさまでぇーす」

本当にどうでもいいんだけど、本気で俺は、コイツらと仲間だと思われたくもないし、一緒にもしてほしくない。

どうやってここから逃げだそうかと考えていたら、奥川がやってきた。

「なんだ、またサボってんの?」

「違うって!」

急に頭に血が上る。

それは本当に唐突すぎて、本当にちょっとだけめまいがした。

俺は奥歯を噛みしめる。

終了の合図が鳴って、体育の授業が終わった。

全生徒を再集合させるのが面倒くさいよき先生のおかげで、そのまま流れ解散となる。

「うおっ、なんで集まってんの?」

「集まってちゃ、ダメ?」

観戦から戻って来た山崎は、奥川を見て笑った。

彼女は持っていたハンドタオルを、ペチンと山崎の腕にぶつける。

「クラス違うと、他では全然顔合わせないよね」

「そんなもんだよー」

「女子は体育、なにしてたの?」

この二人は、高校に入ってから、俺を通して仲良くなった。

同じ中学、同じ高校、同じクラスになった俺と奥川は、入学当初他に話す相手もいなくて、なにかとくっついていた。

俺にくっついていた奥川は、俺と最初に仲良くなった山崎とも、自然に仲良くなった。

山崎は相手が男でも女でも、態度がほとんど変わらない。

女子に対しても、何の抵抗も遠慮もなく接する。

それがいいのか悪いのか、女子受けはいいけど、彼女はいない。

奥川と、もう一人の頑張ってる女子に挟まれても、普通にきゃきゃしながら、雑談で盛り上がれる。

「奥川さんってさ、本当に電子制御部に入るの?」

俺の隣で、同じ光景を同じように、ぼんやりとながめていた庭木が聞いた。

「俺は入らないだろうと、読んでたんだけどな」

「入らねーよ」

入ってほしい気持ちはある。

だけど、今は入ってほしくはない。

「そんなの、入らねぇだろ。きっと」

奥川と山崎がふざけ合っている。

コイツらみたいに、何にも考えず、ただの友達でずっといられたらいいのに。

そんな気持ちになる自分が、不思議に思う。

「ま、俺の方がよかったってことだろ。お前より」

「は?」

「いや、陰キャ部より、生徒会ってこと」

庭木が笑う。

俺は舌打ちをして、立ち上がった。