2年になってクラスが分かれても、体育の授業だけは3クラス合同でやるから仕方がない。

同じ科の同じコースである以上、この運命からは逃れられないように出来ているのだ。

「どうだ、新しいクラスには慣れたか」

庭木は腕を組み、他のチームがドッチボールをしているのを、上から目線で眺めている。

俺はその飛び出た左の頬骨を見上げた。

何か言おうかとも思ったけど、どっちにしろ面倒くさいことには変わりないので、そのまま無視することにする。

庭木は、満足げに続けた。

「まぁ、お前の場合、無口で取っつきにくいところはあるが、それでもクラスの人間と挨拶だけはするからな。今は誰も友達がいなくても、そのうち少しくらいは話しが出来るようになるだろ。それまではしばらく、我慢だな」

3クラスの男子が、クラスごとに2チームに分かれ、2コートでドッチボールをしている。

山崎の投げたボールが、相手チームを一人、外野に追いだした。

「気にすることはないぞ。なにか問題があったら、すぐに俺に相談すればいい。何とかはしてやる。何とかはな」

ガッツポーズで喜ぶ山崎は、内野組とハイタッチを交わす。

相手チームの内野にボールが渡った。

「だから、安心して学校生活を送ってほしい」

浮かれている山崎が狙われている。

背中に当たったボールを、仲間が受け止めた。

それを速攻で相手チームに投げ返す。

外野と内野で入り乱れる銃撃戦に、見ている方も白熱してくる。

「そこでボール、取れよ!」

ついそう叫んでしまった。

足元を狙われる。

団子状に一箇所に固められた内野に、鋭いボールが打ち込まれる。

山崎のスネに当たったボールは、地面に落ちて跳ね上がった。

ピー!

終了の笛が鳴る。

内野の残存兵9対7で、負けた。

山崎が転がり込むようにして、俺の隣に座り込む。

「痛って~。負けたし」

同じクラスのメンバーがなんとなく陣取っている場所に、さっきまでの試合の出場メンバーが集まってきた。

「あれ、庭木、なんでここに居んの?」

次の試合の準備が始まっている。

出場メンバーは、なんとなくAチームとBチームという2チームで作られてはいるけど、出たい奴が勝手に出てるって感じだ。

「吉永、次の出ないの?」

「もう最初に1回出たから、それでいい」

主要なメンバーはちゃんと入れ替わっている。

あとは、何とか体育の授業を真面目にやらないで、誤魔化そうとしている俺みたいな連中が、ちょろちょろと出たいメンバーの残りの枠で、入れ替わっているだけだ。

遠くで庭木を呼ぶ声が聞こえた。

「おい、お前まだ一回も出てないから、出ろって言われてっぞ」

俺がそう言ったら、眉間にしわを寄せた、太いだけの眉がぴくりと動く。

「いいから行ってこいよ」

山崎に言われて、庭木は怒ったように歩き出す。

あいつ、運動は苦手なんだよな。

山崎はその場に寝転んだ。

「あっち~。やっぱ動くと暑いな」

よく晴れた午後の運動場、わずかな校舎の影に、ほとんどの人間が群がっていた。

山崎はさっきまで一緒に試合をしていたメンバーと、ぎゃあぎゃあ騒いでいる。

体育の授業は楽でいい。

このまま流れる雲でも見上げながら、ずっと寝ていたい。