理科室へ向かおうとして、ポケットに手を突っ込む。

鍵の束を取り出して、ようやく理科室の鍵を返されていないことに気がついた。

「くそっ、奥川のやつ」

携帯を取り出し、連絡を入れようと画面を開く。

スライドさせる指先の向こうに、鹿島の姿が見えた。

「あ、吉永部長」

鹿島の手に、その鈍い銀の鍵がぶら下がっていた。

「あ、お前が持ってたの?」

携帯をポケットにしまう。

俺は鹿島からその鍵を受け取る。

「奥川先輩に一度は返したんですけど、やっぱり持っててって言われて。奥川さんからは部長に伝えとくって、連絡があったんですけど」

「今日は他の1年はいないの?」

「後から来ると思います」

俺は何でもないふうを装って、それを受け取ると理科室の鍵を開けた。

奥川から連絡? 

アドレスとか番号の交換をしたってこと?

「お前さ、本気でうちの部でやっていくつもりなの? ニューロボコンとか目指すなら、別にサークルとか作って、自分たちでやった方がよくない? 全然違うよ?」

「だけど俺は、本当に新歓のときの、先輩たちの打ち上げロケットに感動したんです」

「あぁ、もうそれはいいよ」

それはいい。

本当にどうでもいい。

鹿島は理科室の一番端っこの椅子に、ちょこんと腰を下ろした。

二人きりにされてしまった俺も、どうしていいのか分からずにいる。

仕方なくパソコンを立ち上げて、意味もなく画面を右往左往していると、やがて彼は動きだし、黒いテーブルの上に白い紙を広げた。

鹿島は立ち上がると、そこに何かの図面を書き始めた。