なんてことを、誰よりも強く願っているはずなのに、俺の大切な場所が、俺の居場所だったはずの理科室が、すっかり侵食されてしまっている。

1年軍団だ。

部長であるはずの俺が、とにかく部活に行きたくない。

非常に足が重い。

それが仮入部の間の二週間だけだと思っていたから、まだ我慢出来ていたのが、完璧に風向きが変わってしまった。

「おめでとう! 予算がっつりとれたよ! 顧問の先生も、びっくりしてた!」

奥川が追加予算決定の通知書を持って、わざわざ放課後の理科室に登場したときには、その絶望が確定した。

「なんだよ、そんな大事なこと、先に俺に言うべきだろ」

彼女の耳元でそうつぶやいたら、妙に変な顔をされる。

「あんたに言ったって、しょうがないじゃない」

「先に教えてほしかった」

大事な話じゃないか。

それを鹿島たちに伝えずにおいておくことも出来た。

まぁいずれバレるかもしれないけど、その時には予算に手をつけずにおいて、「すいませんでした」って、そのまま生徒会本部に全額を返してしまえばいい。

もしくは予算が下りないことを理由に、参加をあきらめさせることも出来たのに。

突然のそんな大きな追加予算を学校側が許すなんて、俺の大きな誤算だ。

「やったぁ!」

鹿島たちと一緒になって、彼女まで盛り上がっている。

どういう風の吹き回しだ。

うちの部に全く興味もなかったくせに。

しかもお前はまだ部員でもないんだから、関係ないだろ。

そういう特別な話題は、特別な相手にだけ、特別に話してほしい。

隣のクラスとはいえ、廊下でもすれ違うこともあるのに、何も話しかけられなかったのが、少し悔しい。

どうして彼女の方から、声をかけてくれないんだろう。

「じゃあ早速、資材の買い出しに行こうぜ」

1年軍団が立ち上がった。

何を始めようっていうんだ。

これ以上俺を無視して、好き勝手なことはさせない。

「待て。お前らはまだ、仮入部の期間だっていっただろ。なんの権限があってこんなことしてんだ。入部届けを、俺はまだ受け取ってねーぞ」

ぴたりと動きの止まった1年軍団の中で、鹿島は一人振り返った。

「部長、入部届けは、もう書いたはずです」

「まだ仮入部の期間だっつってるだろ。たとえ今ここで入部届けを出したとしても、正式に部員となるのは、週明けだ」

学校の決まりでそうなってるんだ。だろ? 

俺は何一つ、間違ったことを言っていない。

「だったら、俺たちはもう部員なんじゃないんですか」

「この活動計画にしたって、本当は部長の俺が書いて出すべきものなのに、そうじゃない人間が書いて認められるなんて、おかしくないか? 生徒会本部は、どういう判断してんだよ。部員でもない新1年が書いた計画案だぜ?」

そう、こんなものに意味はない。

黄ばんだ再生紙の上に並んでいるのは、その数字も文字も、ただのインクの染みだ。

「俺は別にニューロボコンへの参加を否定してるわけじゃない。予算だって、認めてもらえたのはありがたいと思ってるよ」

俺はそこにあった、ただの再生パルプの紙切れを手に取った。

「だけど、勝手な判断は認められない。これは俺たちでどうするのか、今後考える。それに文句のあるやつは、ここから出て行け」

やりたいことがあるのなら、自分たちで新しい部活なりサークルなりを、作ればいいじゃないか。

お前らがここを出て行くといえば、この予算はそっくりそのままくれてやるし、なんならサークルの立ち上げを手伝ってやってもいい。

この理科室がほしいと言うのなら、ここを譲ったって、俺たちに新しい部室を用意してもらえるのならば、それでもいいと思ってるんだ。