「わ、偉いじゃない、どうしたの?」

「あぁ、おはようございます」

鹿島の頬が少し赤らんだのを、見逃すような俺ではない。

「ほら、行くぞ」

そう言って歩き出そうとした俺の、制服の袖をつかんだのは、奥川だった。

「入部届け、書いた?」

「いえ、まだ仮入部の期間が終わってないので」

鹿島はにっこりと、余裕な笑顔を作ってみせる。

「そっか。意地悪とか、思わないでね。とりあえずこれは、ちゃんとしたルールで、他のどの部活でも同じことだから」

鹿島はそんな奥川の言葉に、今度はゆっくりと微笑んだ。

「はい」

「あぁ、それでね、私は今日、偶然吉永くんと、一緒になっただけなの」

「は?」

奥川の話が急に変な方向に飛んで、俺は混乱した。

それはきっと鹿島も同じだ。

困惑している。

「幼なじみっていうか、ずっと腐れ縁って感じで、高校まで一緒になるとは思わなかったよねー」

彼女は下から俺をのぞき込んだ。

何言ってんだ、お前。

「今日は部活ない日だから」

他に何も言うこともなくて、俺は間を取る為に口を開く。

「週2の、火金でしたよね」

「まぁ俺は、ほぼ毎日行ってるけど」

奥川が、俺の背中にガツンと肘うちを入れた。

「コイツ、彼女とかもいなくて、ホントに暇だからさぁ!」

そう言って、無理矢理笑う。

「うるせーよ」

「あ、じゃあ、俺も今日、理科室行きましょうか? することないし」

「やっだ、鹿島くんがそこまですることないってぇ~」

「来なくていいよ。別に来てもらっても、することないし」

鹿島は何かを考えるように、少しうつむいた。

考えるな。

いいから、来るんじゃない。