遅刻寸前で家からの最寄り駅に駆け込み、電車に飛び乗ると、奥川が同じ車両にドアの閉まる寸前、滑り込みで飛び込んだ。

目があって、少し気まずくなる。

彼女は俺に背を向けると、ドア横の手すりにつかまった。

俺は反対側の窓にもたれて、そんな彼女の背中を見ている。

小学校の1年の時から、同じクラスになった。

男女の区別なんて、ほとんど意識していなかった時代、一番最初に仲良くなった友達だったと思う。

誕生日にはプレゼントをくれたり、時にはお手紙なんてものを書いてくれたり、バレンタインには、チョコをくれたりしていたのにな。

揺れる朝の電車のなかで、揺れる彼女の髪の先を見ている。

高校が一緒になったのは、本当に偶然だった。

近所に偏差値も校風も適度なところといえば、ここくらいしかなかったってのも、あるかもしれない。

中3の冬、同じ学校を受験するメンバーで集められた時、そこに彼女の姿があったことに驚いた。

猛勉強した。

停車駅で扉が開いて、どっと人が乗り込んでくる。

彼女はその波に押されて、奥へと押しやられる。

俺がドア側に少し空間を空けてやったら、するりとそこに滑り込んだ。

すぐ胸元にいる彼女に、目を向けないように視線を上にそらす。

彼女は携帯を取り出すと、何かの操作を始めた。

周りから見れば、多分この光景は、満員電車でただ押し込められただけの、知らない者同士にしか見えないんだろうな。

「すいません、降りまーす」

降車駅についてそう言うと、扉が開くのと同時に、わずかに人の間に隙間が出来る。

わざわざ振り返らなくたって、彼女は俺についてくるって、分かるのは、なんとなくうれしい。

ホームに降りて一息入れている間に、彼女はするりと俺の横を通りすぎた。

改札を抜ける頃には、完全に俺が彼女の後ろをついて歩くようになっていて、それはそれでなんだか、苦々しくも思う。

礼を言えとは言わないが、少しくらい何かあっても、いいんじゃないのかな。

少しくらいは、の、何か。

「先輩!」

その声に驚いて、俺は振り返る。

この世で俺を『先輩』なんて呼ぶ奴が存在したのかと思ったら、鹿島だった。

校門をくぐってすぐ脇の花壇に、水をやっている。

「お前、なにやってんの?」

「美化委員なんで、クラスの」

それでなんで、花壇の水やり? 

とは思ったけど、黙っておく。

朝日を浴びてよりいっそう、爽やかすぎるこの一つ年下の男に、腹が立って仕方がない。

そこへ突然、奥川が割り込んできた。