「入部届けの追加をもらいに来たんだよ」

奥川は出入り口付近の書類棚を開けると、そこの紙束を真っ直ぐに俺に押しつけた。

「はい。ちゃんと書いてもらいなさいよ」

「部外者は入室禁止!」

「お前にも入ってほしい。ずっと言ってるけど、そろそろ本気で考えてくれないか?」

彼女と目が合う。

俺は奥川とのつながりを、関係を、一つでも多く増やしておきたい。

「部外者は入室禁止だって!」

「考えとく」

くるりと背を向けようとする彼女に向かって、俺は手元にあった一枚の紙を差し出した。

「はい。じゃあこれ」

奥川は差し出されたそれを、じっと見下ろす。

彼女の手がそこに伸びるまでの数秒間が、とても長く感じられる。

「部外者は入室禁止!」

「早く行きなよ。みんな待ってるよ」

ややうつむき加減にそう言った彼女の表情が、なぜか胸に焼き付く。

もう少し一緒に居たかったけど、庭木はうるさいし、これ以上彼女のそばにいても、何も変わらないような気がした。

「じゃ、また」

俺は廊下に出ると、生徒会室の白いドアを閉めた。

俺の閉めたドアの、その何が気に入らなかったのか、庭木が顔を出す。

顔を出したかと思ったら、庭木はすぐにわざとらしい大きな音をたてて、乱暴にドアを閉め直した。

ホント、やな奴。

仕方なく理科室をのぞきに行くと、1年たちが鹿島を中心に何かをやっている。

それが俺にはなんだか別次元の出来事のように思えて、廊下から中へ向かって叫んだ。

「鹿島、鍵はあいつに返しといて」

精一杯の爽やかな笑顔を振りまいて、特に何の予定もないのに、何か特別な用事でも出来たかのような態度で手を振る。

鹿島は小さな声で「はい」と応えただけで、すぐにうつむいたまま、それ以上何も言わなかった。

行き場をなくした俺は、仕方なく2年の自分のクラスに戻った。