「画像に撮って、本部に送る?」

「紙じゃなきゃダメだって、お前がいま言ったばっかりだろ」

「あ、じゃあ、画像に撮って、パソコンに保存しておきますか?」

鹿島はポケットからUSBを取りだした。

また余計なことをする。

そのUSBは私物か? 

ブルーの真新しい立派なそれを、古い古いパソコンに差し込む。

「それ、つながんの?」

「こないだ、パソコンの容量を落としてアップグレードさせておいたので、使えるようになってます」

「容量落としたら、ますます使えねぇだろ」

そう言った俺を、鹿島は見上げた。

「あ、余分なファイルを削除して、クリーンアップとデフラグをかけたっていう意味です」

なぜか申し訳なさそうな顔をして、目をそらす。

俺だってそんくらいのことは、分かってるよ!

「あぁ、そういうことか。うん、最近パソコンのメンテやってなかったから、助かったよ」

一応お世辞でもそう言っておいてやったのに、鹿島はぎゅっと唇を横に結んだまま小さく頭を下げただけだった。

奴の大きな手の平から伸びる長い指が、カタカタとよどみなくキーボードを叩く。

「なにこれ、私物のUSB? だったら、部で使うのはマズくね?」

「あの、部長。印鑑をください」

そこにいた全員の視線が、俺に集まった。

山崎までじっとこっちを見ている。

なんだよこの流れ。

部長印はタダじゃねーぞ。

「あれ? どこに置いてあったっけ」

背中に集まる視線が痛い。

本当は覚えているけど、忘れたフリをしてもぞもぞと探し回る。

俺は部活用に割り当てられた引き出しから部長印を取り出すと、渋々とそこに承認の印を押した。

鹿島はそれを携帯で画像に収めると、またパソコンを操作する。

「なぁ、そのUSBって……」

「ニューロボコン用に新しいのを自分で買ったので、大丈夫ですよ」

だから、そうじゃないんだって。

「お、偉いねー。鹿島はやる気だね」

山崎がそう言うと、1年どもは笑った。

「活動計画書と、予算追加の申請を保存しておきました」

「ごくろうさま」

鹿島の肩に手をおいたのは、俺ではなく山崎の方だった。

山崎は鹿島と目を合わせて、にっと微笑む。

「後はこっちに任せて、制作の具体的な準備を始めとけよ」

「はい! お願いします」

鹿島たちの、キラキラとした笑顔がまぶしい。

山崎は満足した様子で、俺のところへ戻ってきた。

「後輩って、結構かわいいもんだな」

俺は勢いよく鼻を鳴らす。

「後は任せろって、なにをするつもりなんだよ」

「えぇ?」

山崎は笑って、俺を振り返る。

「そんなの、頑張れよっていう意味に決まってんだろ」

「何を頑張るつもりなんだよ」

俺は染みのついた天井を見上げた。

俺にはコイツが何を言っているのかも、何を考えているのかも、さっぱり分からなかった。