俺は書類のチェックをしているフリをして、紙に目を落とした。

細かい文字で何かがびっしりと書かれているが、内容は何一つ頭に入ってこないし、興味もない。

どうせやったって無駄なことに、何を頑張る必要がある。

これは鹿島だけの問題じゃない。

それに巻き込まれる俺にとっても、ニューロボコンへの参加は、無駄な努力に無駄な時間に無駄な労力だ。

どうやってやめさせようか。

そればかりを考えているうちに、廊下を歩いてくる話し声が聞こえ、1年と一緒に山崎が入ってきた。

「山崎、お前、これどう思う?」

副部長兼、総務兼、書記であり会計も任せてある、雑用係の俺の右腕、山崎に全てを託す。

助かった。

これでこいつがダメと言えば、もうお終いだ。

それに便乗して、却下できる。

コイツらの挑戦も、ここでおしまい。

落胆したコイツらは入部を諦め、ここを去る。

山崎は難しい顔をして、じっと書類をチェックするフリをしていた。

「うん、いいんじゃないかな。とりあえずこれで出してみたら」

鹿島たちの顔がパッと明るくなった。

その紙をそのまま鹿島に手渡す。

「ありがとうございます!」

「おい、本気かよ」

詰めよる俺に、山崎はにっこりと笑った。

「まぁ、実際のところはやってみないと分かんないわけだし。とりあえずそれっぽいことを書いて、予算と許可をもらえればいいんだろ?」

コイツの楽観主義はいつものことだが、今回ばかりは完全に理解出来ない。

頭がおかしい。

こんなのを本当に通してしまって、大丈夫なんだろうか。

「提出期限もあるし、これで突き返されたら、もう一度案を練って食い下がろう」

そのワケの分からない紙を鹿島は手にしたまま、俺を見下ろしている。

こんなの、どうしろっつーんだ。

「何やってんだよ、ほら、受け取れよ」

山崎にそう言われて、渋々と受け取る。

紙面の右隅にある、部長印の欄が痛い。

鹿島はほっと息を吐く。

「つーかさ、こんなもん、今どき紙なんてありえねーよな。ネットのクラウドでやれよ、資源の無駄遣いだよな、時代遅れじゃね?」

「そんなこと、いま言ったってしょうがねぇだろ」

「俺たち、電子制御部なのに?」

呆れたような山崎は、部のパソコンを開いた。

「だったら、お前がテンプレ作ってやれば? 生徒会と学校の問題だろ」

俺の本当に言いたいことは、そんなことじゃないのに、どうして山崎にはそれが伝わらないんだろう。

山崎なのに、どうした?