一度、本物の高専ロボコンを見に行ったことがある。

市立体育館の広い会場に控え室まであって、それはそれはもう、立派な大会だった。

今回の予選会場となっているのは、高専高等学校の体育館だった。

普通科一般校の生徒のマシンだなんて、小学生の工作以下ぐらいにしか、思わないんだろうな。

本家のロボコンと比べると、マシンのサイズも小さいし、要求される性能も低い。

参加校だけがやたら多くて、裾野を広げるのには一役買っているのだろうけど、俺たちみたいな存在を、彼らはなんと思っているのだろう。

「よろしくお願いします」

俺の分まで鹿島は手続きをして、やっぱり鹿島に促されて中に入った。

控え室なんてものもない。

出場予定者のために、パイプ椅子が並べられているだけだった。

鹿島と二人、なぜかぴったりと横に並んで、そこに座る。

「トイレの場所、分かりました?」

鹿島が突然そんなことを聞いてきて、俺は返事に困る。

「いや、聞いてなかった」

「あ、別に大丈夫なんですけどね、なんとなく」

鹿島は浅く長い息を吐き出す。

少し早かったせいか、まだ会場は閑散としていて、出場予定者の席にも、ぽつりぽつりと人が座っているだけだった。

何を話していいのかが分からない。

こんなことなら、みんなと一緒にワイワイ言いながら来た方が、よかったのかな。

俺は妙な緊張感に、かじかむようにこわばった指を伸ばした。

鹿島の目は、開いたり握ったりする俺の手を見ている。

「先輩は、俺のこと嫌いですか?」

「別に」

こんな時に、何を言っているんだろう。

そもそも、こんな時にこんな面と向かって、「嫌い」とか言う奴も、大概だろ。

「普通こういう状況で、嫌いとか言わないよね」

そう言うと、鹿島は笑った。

「はい、そうでした。よかった」

その笑顔に、突然こいつと出会ってからの出来事が、走馬燈のように蘇る。

なんだこれ、俺はもうすぐ死ぬのか?

「お……。お、落ち着いたら、みんなで打ち上げでもしような」

「はい」

勝手に頬が熱くなる。

俺はつい余計なことを言いそうになって、そこはちゃんと踏みとどまった。

「暇だな。ちょっと散歩でもしてこようかな」

俺は膝の上の段ボールを椅子の上に置いて立ち上がった。

「お前はどうする?」

「俺は、ここにいます」

そりゃそうだよな。

大事なマシンを置いて、予選会の前にふらふらしている奴の方がおかしい。

俺は鹿島をおいて、外に出た。