「要するに、やってみりゃいいんだよ」

山崎はふいに、的の後ろに回り込んだ。

「で、これは、どうやって操作すんの?」

山崎はおもむろに、モーターにつながった溝カムを、配線から引き抜いた。

「えぇ、それ抜いちゃダメだろ」

「え、ダメだった?」

もうやっちゃたし、いいけど。別に使ってなかったし、すぐ直せるし。

「じゃあ、俺が代わりにやってやるよ」

山崎は手動で、的の出し入れを始めた。

頭を出しては無理矢理引っ込められる段ボール製の的が、隙間にひっかかって、ズズーっと嫌な音をたてる。

「壊れるって」

「いいから、俺と勝負しろ」

山崎は本気だった。

どうやって持っているのかは知らないけど、3本の的を上手く操作しながら、真面目な顔でこっちをのぞき込む。

その挑発的な態度に、仕方なく俺ものってやる。

「じゃ、真剣勝負な」

山崎が左端の的を出した。

俺はそれを横目に、マシンのスイッチを入れる。

彼はそのまま、ぽこぽこと次から次へと的を出し入れして、その感触を確かめているようだった。

マシンから発射されたピンポン玉が、山崎の操作する的を撃ち抜いた。

「よし、来い」

一旦全部を引っ込めてから、中央の的があがった。

俺はそこに標準を合わせる。

シリンダーの発射ボタンを押そうとした瞬間、的は箱の中に消えた。

「おい、的は3秒出現、1秒待機って、決まってんだけど」

「は? うるせー、30発真剣勝負だ」

そのめちゃくちゃな言い分に、イラっときた俺の発射した弾が、山崎の額に当たって跳ねた。

「痛て」

それでもまだハンターの目つきで、山崎は的の向こうで構えている。

お前が俺の発射した弾を、的に当てずに避けるということは、その弾の全ては自分に当たるということが、分かっているんだろうか。

「よっしゃ、真剣勝負な。ボッコボコにしてやんよ」

今度は全ての的をいっぺんに上げる。

俺は山崎がどの的を残すか、狙いを定める。

発射しようとした瞬間、的の位置がパッと横にずれた。

「だから、せめてルールくらいは最低限守れって! そんな位置から、的は出てこねーの! 定位置なの!」

「うるせー、真剣勝負だっつっただろ!」

俺は連射で全弾を一気に撃ち出す。

その全てを山崎は的に当て、自分に弾が当たらないように操作した。

「全部当たってるし!」

「うるせー、俺に当ててこい!」

くっそ、あの野郎覚えてろよ。

発射した弾を、山崎は全て的を使ってはね返す。

その得意げな顔に、俺は真剣にイラつき始めていた。

目標を、段ボールの的から、山崎の眉間に変更する。

気がつけば、とっくに日は落ちていて、完全下校時間を知らせるアナウンスに、ようやく我に返った。

俺と山崎は、腹を抱えて笑っていた。

腹筋はよじれすぎて、とっくにちぎれきらしている。

こんなにも笑ったのは、久しぶりかもしれない。

「おい、やばい。そろそろ帰ろうぜ」

「おう。また明日な」

手を振って、校舎を出たところで別れた。

夕闇のなかに、山崎の背中が馴染んでいく。

俺はどうすればもっと効率的に山崎の眉間が狙えるか、その方法を考え始めていた。