谷先輩と目があった。

にこっと笑って、手を振ってくれる。

俺が軽く頭をさげると、何も言わずに、そのまま帰っていった。

俺の役目は、もうこれで終わりだ。

予選会? どうしようかなぁ。

まぁこのまま残り1ヶ月程度を、マシンをいじり倒してるフリでもして終わらせれば、なんとかなるだろ。

それで、予選会までは、頑張ったフリでもしてればいいか。

負けてもまぁ、そうやって頑張ったアピールをしておけば、それなりに許してもらえるしな。

努力しないで負けたのなら、それは批難される。

だけど頑張って負けたのなら、批難はされない。

だから頑張ったフリをしておけば、優しい世界では、それを見逃してくれるようになっているんだ。

生徒会長の庭木が、俺に近寄った。

「でかい口を叩いてた割りには、たいしたことなかったじゃないか。まぁもちろん、努力はしたんだろうけど」

彼はにやりと笑った。

「仕方ないよな。努力は酬われるとは限らない。大切なのは、そこに至るまでの過程なんだから。お前は頑張ったよ」

彼の手が、ポンと俺の背中に触れた。

顔を上げた瞬間、なぜか奥川と目があった。

「奥川!」

制服の合間に、彼女の姿が見え隠れする。

大嫌いな庭木の言葉が、なぜか俺に火をつけた。

「予選会が終わったら、お前に話したいことがある!」

彼女の眉間に、ぐっと力強く明らかに大きな特大のしわが寄った。

会場には、まだ何人か残っている。

「だから、絶対に、予選会を見にきてほしい」

奥川は作ったその眉間の盛大なしわでさえ、微動だにさせない。

「バーカ」

そう言っていつものように、スカートの裾をふわりと翻させる。

だけどそんな姿を見送るのは、もうこれで最後にしよう。

俺は唐突に、そう決意した。