「じゃ、吉永からね。用意はいい?」

「いいよ」

山崎は片手を上げる。

「スタート!」

正式ルールでは、セッティングのための時間にも制限がつけられている。

3人で5分。

その時間内に全てを用意して、OKの合図を審判に出さなければ、それだけで失格になる。

俺は一人で、的からの至近距離、規定ラインすれすれにレールを敷いた。

本番では、これをきちんと固定する予定だが、理科室の実験テーブルの上に、くぎ付けするわけにもいかない。

挙動範囲外のレールを、養生テープで固定する。

マシンにピンポン玉を充填して、俺は山崎に合図を出した。

「それでは、準備が出来たようなので、カウントダウンに入ります」

2台の携帯が並ぶ。

カウントダウン用に5秒に設定されたものと、競技時間を測定する、120秒用のものだ。

山崎がスタートボタンを押した。

握りしめるコントローラーが、じんわりと汗ばむ。

的にスイッチが入れられた。

1年の作った的マシンが動き出す。

こいつらのは俺の原始的なものとは違って、工学部教授の手が入った、完全電子制御の公式マシンだ。

「3、2、1、スタート!」

一本目の的が顔を出した。

俺の指がピクリと動く。

だがそれは、射程範囲外の上段の的だった。

たった3秒であるはずの、的の出現時間がとてつもなく長く感じる。

全く動こうとしない俺とマシンに対して、周囲がざわつき始めた。

「ねぇ、なにやってんの?」

「故障? トラブルとかなのかな」

次の的が顔を出す。

今度は下段左側。

俺はさっとコントローラーのスティックを左に倒した。

マシンがレールの上を滑る。

そこで突然、ガクンと動きを止めた。

タイヤの回転数、つまり移動距離はあらかじめ制御してある。

一定以上の距離を、コイツが移動することは出来ない。

つまり、中央から的までの距離を、正確に移動することが決められているのだ。

止まったその位置で、俺はシリンダーの作動ボタンを押した。

押し出された弾はガシャンと飛び出し、見事に的の中央に当たった。