春斗の短くなった髪を見ていると、気づいたのか前髪を隠しながら春斗は私の座る席に近づいた。
「それ、家で撮ったの?」
 春斗は私の目線と同じくらいにかがんで携帯を見た。
「そう。お母さんと一緒に咲いたって喜んでたの」
 母の会話をするのはとても嬉しいことだった。
誰かに私の家族のことを話すことがなかった。
でも今は母との会話ややり取りを春斗や杏夏が聞いてくれる。
特に春斗はその場にいてくれた。
心配で様子を聞いてくれているのは微笑んで「そっか、よかった」と毎回言うから気づいたこと。
「そういえば春斗、後夜祭の手伝いしなくていいの?」
 携帯を眺める春斗を見て学校ということを思い出す。
「あぁ、他の人も探してたらしいから人数余って俺はやめてきた」
「そっか」
 春斗は隣の席に座って教室を眺めた。
「今回の文化祭はいつもと違って新鮮だった」
 春斗が珍しく目をしっかり開けて楽しそうな顔をしている。
一瞬、その春斗を見つめてしまう。
その目線に気づいたのか春斗は私の方を見て首をかしげる。
慌てて話を思い出すために笑顔を出す。
でもその中に嫌味はない。
「私も新鮮だった。誰かと行事を楽しもうとすることがなかったから。杏夏がいないのは寂しかったけど」
 杏夏を思い出すと彼女の悔しさが身に染みる。
「あいつはあいつのできる限りのことをしたんだから、たとえ全員がわからずとも俺たちはわかるだろ。俺、関係って深く狭くの方が好きなんだ。だからその中に入った人のことはいろんな理解をしてやりたい」
 暗い廊下を遠目で見つめながら春斗は腕を組んで淡々と話す。
その姿からは出てこないような言葉がたくさん出てくるがどれも私には刺さる言葉だった。
きっと上手くいく人、たくさんの人と関わることが夢の人。
その人たちに向いている言葉ではないとはわかる。
でも私の中では春斗と同じで理解できるものだった。