名もない花のように生きる君へ

 六月。
母と暮らすようになってから一か月が経とうとしていた。
父との連絡は一切ない。
それでも私は今の生活が充実していて楽しかった。
母と些細なことで笑い合い、時には真剣な話をして時々喧嘩口調になることもる。
そういう時に春斗や杏夏に愚痴をこぼすと二人は笑って口をそろえて言う。
「元気になってよかったね」
「楽しそうだね」
 二人の言葉は愚痴を吐く私が変わったことを示している。
昔の私はきっと何か隠していると誰もがわかっていたんだろう。
関わりたくない。でも嫌われたくない。
そんな主張と欲が顔や行動に出ていたから私は成長できなかった。
変わった私は今までの中で一番強くなったと思う。
楽しい。嬉しい。興味。興奮。
どれも味わえなかった感情のようで自分の成長にはおいしかった。

 最近は体育祭が終わり、その流れで文化祭の用意に入ったため、放課後に勉強会をするのは三人が諦めた。
その代わりいつもの公園で時間を潰すのが日課になっていた。
「私、後夜祭出ないといけないんだよね」
 苦い顔を見せて杏夏はベンチに寄りかかる。
大きくため息をつく杏夏の横に私は静かに座る。
「杏夏、実行委員になっちゃったんだっけ?」
 杏夏は大きくだるそうに頷いた。
後夜祭は文化祭のトリ。
杏夏は委員会で学年のまとめ役になったため、後夜祭などの運営に大きく携わっていた。
「午前中は夕希と一緒に居られるけど午後から仕事が多いんだよね」
「じゃあお前がいなくなったら夕希と二人だな」
 杏夏がため息混じりに言う横から春斗が気だるく背伸びしながら微かに笑っている。
「人が嫌だって言ってるのに何で怒らせるかな」
 杏夏は鋭い目を春斗に向けるが春斗の目には映らないと言わんばかりの春斗の微笑み。
杏夏もいつも通りなのを知っていて春斗に向けて意地悪な笑みを見せる。
「まあ、私がいないと夕希を奪われないからねー」
「それ以上口開いたらお前を呪うぞ」
 春斗は鋭く言う。
それでも冗談だとわかる今は彼を恐れる必要がなかった。
杏夏もそれを見て「はいはい」とあきれ顔を見せる。
文化祭が楽しみという感情は今まで持ったことがない。
それどころか行事全てにおいてだ。
でも今年は違う。
その中で一つ心配なのは私の苦手な要素が詰められていること。
苦手な要素も克服しようと考えていた私は二人に言わなかった。