昼休みが終わり弁当を片付け次の授業に向けて用意をした。
次の授業では杏夏は私や春斗とは違うところに行かなくてはならないため早く教室を出た。
一方かなり近い教室に向かう私と春斗はゆっくりと廊下を歩いた。
「なあ」
 春斗は呼び方がよく変わるなと一瞬思うと同時に首を傾げた。
「お父さんのこと聞いていいか?」
 春斗は珍しく目を合わせず、迷ったように力なく発言する。
私の家庭事情を一番わかっているのは春斗。
その春斗はきっと気になる点がいくつもあったはず。
杏夏の前でそれを言わなかったのは春斗の優しさだろう。
「大丈夫だよ」
 春斗は小さく頷いて結んでいた口を緩めた。
「お母さんのところに行くって言って何もなかった?」
「とりあえず、行くことに反対もしないし、引き留めようともしなかった」
「そっか」
 振り切った私の力がみなぎった声を聞いて春斗は安心したように微笑む。
「夕希と帰る時間も短くなるな」
いつも家の前で待ってくれたり家まで送ってくれたりしていた春斗と一緒に帰れないのは私も悲しくて寂しかった。
どこかで胸が締め付けられているのも感じていた。
「でも、春斗にはいつまでも会い続けるから。しつこいくらいにね」
 上機嫌のように見せて私は笑う。
「じゃあ、俺も夕希にしつこいと思わせてやろう」
 私たちの冗談はいつも笑顔を生む。
わかっているから繰り返す。
私と春斗の関係もいいものだと思う。
私はいい人に巡り合えた。
今ではそう思えるほど私の心は変わっていた。