週明けの今日。
昼休みの教室は相変わらずにぎわっている。
その教室のにぎやかさも気にならないくらい目を丸くしている杏夏がいる。
「え、お母さんに会えたの。いつ？」
　聞きたいことがたくさんあるとわかるほど杏夏は動揺していた。
母のもとへ行くことを杏夏には話していなかった。
会えるかもわからない。どんな反応をするのかわからない。
それなのに杏夏に言うのは申し訳ないと思っていた。
杏夏にその気持ちを出しても春斗に同じ気持ちにならなかったのは私にもわからなかった。
「土曜日にお母さんの実家に行って会えた」
「大丈夫だったの？」
　心配そうに見つめる杏夏はまるで第二の母のように私に寄り添う。
「最初は動揺してたけど、話しているうちに元のお母さんに戻ってくれたと思う」
　杏夏の不安が解放されるように安堵の表情に変わる。
肩の力が抜けたのがわかるほど微笑んだ。
「よかったね。夕希の一つの願いが叶って」
　大きく頷いて杏夏に笑顔を見せる。
その私の横に座っていた春斗も大きく頷いている。
一緒に母のもとへ行ったことを杏夏に隠すのは何も言わずともお互いが理解していた。
それは深く掘りすぎない、一番いい距離にいる友達として杏夏と付き合っていくためだった。
杏夏は「よかった。よかった」と頷きながら弁当のふたを開ける。
ふと浮かんだ最初の頃の杏夏の姿。
いつも冷静で静かだった杏夏が感情を表情、行動に表すのは私にとって
嬉しかった。
春斗も前と違って棘のある怖い春斗ではない。
そう思った時、私は笑う表情を見せながらも心の奥で決めていた。
自分の気持ちに素直になって行動することを。