涙が止まらない私の頬を母が体を離して触る。
「ずっとこうやって夕希に触れること願ってたの。願いって叶うのね」
 昔の微笑み。私を包んでくれる笑顔。
母が頬に触れてくれている安心感。
私はきっと今までで一番安心できる笑顔をしていると感じている。
母が私の頬から手を離すと私から目をそらした。
「君は?」
 母の言葉で私は失礼にも春斗に気づいた。
ずっと見守ってくれていた春斗は私に笑顔を見せた。
「私の友達。高校に入って初めてできた。一番頼れる人なの」
 私の言葉を聞いて春斗は母に会釈した。
母は小さく頷くと姿勢を正して春斗に体を向けた。
「夕希のこと大切にしてる?」
 母の言葉に母が勘違いしていると慌てる私。
その慌てる私より先に春斗が答えた。
「はい。大切にしてます。自分のことを一番わかってくれてとても心に光をくれます」
 春斗が私への思いを言うことに対して違和感しか感じなかったが、すぐに照れるという感情が浮かび上がる。
「そう。じゃあこれからもよろしくね」
「はい」
 この会話はもっと大切な時に使う話だと思っていたのにあっさりと使われた言葉たちは私の頭を駆け回る。
それでも嬉しいと思えた。
大切にされているのはどれほど嬉しいかわかることができた。
「とりあえず上がりなさい。話したいからね。昼食ももうすぐだし。あなたもね」
 やっと話せる母との時間。
そこに一番頼りにしていて私のことを見届けてくれた春斗もいる。
それが私にとって何よりも嬉しいことだった。
幸せ。その言葉はここから始まるもののように私に力をくれた。