前の私は笑顔もなかった。
きっとあの声が導いてくれなかったら笑うことはなかったと思う。
杏夏を見て私は人の笑顔ほど安心するものはないなと気づいた。
この笑顔を増やしたい。
それは自分を含めてそう思った。
杏夏の笑う姿を見て春斗は私に疑問を抱えた顔を見せる。
「女子って?嫉妬って何のこと?」
 さすがにその質問には答えにくく苦笑いでその場を過ごす。
春斗は腑に落ちない顔をしているが隠し事も必要だなと思うのは少しずつ私がこの世界を知ってきたからのような気もしていた。
「で、お前も一緒に勉強するの?」
 質問に苦笑いで返された春斗は椅子の背もたれに寄りかかりながら杏夏を見ていた。
「時田が邪魔だと思わないなら入れてもらう」
「別に邪魔じゃねーよ」
 杏夏は同じ学年とは思えないほどの雰囲気を私に与えながら近くの席に座った。
まだ出会って間もない二人。
でも私の中で二人が一緒にいるこの空間は何よりも過ごしやすくて楽しい空間だった。
温かい日差しが私たち三人を包んでくれているように優しい時間が流れた。