静かな住宅街を歩くと最近できた家と前からある威厳のある家が交じり合っていた。
一歩進む度に鼓動が速く大きくなる。
その鼓動が一番大きくなって体全体に響き渡った時、私は足を止めた。
そこには髪型も違う。少し痩せたようにも見える。
それでもわかる母の姿があったから。
母は古風な家の庭で園芸を楽しんでいた。
微笑みながら庭を手入れしている母はまるでいつも一緒にいたかのような安心感を私に伝える。でもその目は輝きを失っているようにみえた。
「お母さん……」
 立ち止まってその家の前で私は母を呼んだ。
呼んだ後、すぐに振り返った母は目を見開いてその場に固まっていた。
微笑んでいた顔が歪むのは私にもわかった。
その歪んだ顔を隠すように母は私たちに背中を向けた。
「お母さん、ごめんね」
 私が最初に出した言葉が謝りの言葉だったのはきっと辛さを救える人がいなかったと今の私にはわかるから。
その言葉に母は反応した。
もう一度私に顔を見せると口を結んでいた。
見つめあう私と母。
心を通わせた気分になるほど長い時間だった。