ベンチに座ると春斗はポケットから手を出して私が話すのを待った。
自分が春斗を待っていたのにまだ心の準備ができていなかったのか言葉を詰まらせている自分がいた。
でもその気持ちから離れる方法をわかっていた。
自分の心に刻んでいるものを思い出す。それだけだということを。
「私、お母さんに会いに行こうと思う」
 一瞬私を見て今の発言の意味を理解しようとした春斗。
それでも何も言わず私の話を聞いた。
「お母さんの部屋から年賀状を探したの。そしたらお母さんの実家の住所がわかった。そこにお母さんがいるかわからないし、おじいちゃんやおばあちゃんがいるかもわからない」
 どれほど無謀な行動かはわかっていた。
なんの情報もつかめず帰ってくる可能性もある。
もしもそこにお母さんがいたとしても私にどんな反応をするのかもわからない。
それでも会いたかった。確かめたかった。
自分に家族がいるということを。
「私は自分が後悔しないように行動したい。でもね、一人じゃその勇気も覚悟も揺らいでしまうんじゃないかって思ってる」
 私は息を吸って春斗の方に姿勢を向けた。
「だから春斗についてきてもらいたい。自分だけで解決しなきゃいけない問題なのはわかってるの。でも昔の私ならこのまま逃げてた。でも行動できるようになったのは春斗に出会えたからだと思う」
 春斗についてきてもらうことは自分の力で進んでいるかはわからない。
それでも過去を振り返れば逃げたい時、自分の闇に飲み込まれそうな時、いつも春斗がそばにいてくれた。
私に力をくれる言葉をかけてくれて、時には温もりを貸してくれた。
だから春斗の力を借りてでも進みたかった。
「春斗の力は私にとってとても必要で光になってくれるの。だから一緒にいてほしい。見守ってほしい」
 握っていた拳を見ていた私は言い終わると同時に春斗の顔を見た。
春斗はずっと私のことを見ていたんだとその時わかった。
真剣な顔をしている春斗を見ると鼓動が大きく響き渡る。
それでも春斗の言葉を聞きたかった。
「わかった」
 小さく頷いて温かい目をした時、私の鼓動がゆっくりと元の音に戻っていった。
「でも、俺は一緒にいるだけ。夕希についていくだけにする。そうじゃないと夕希の力にならないから」
 もう一度真剣な顔をする春斗。
その言葉は前を向かせてくれる言葉だと私は思う。
「ありがとう」
 やっとスタート地点に立った私。
でも心配は少なかった。春斗がいてくれるとわかったから。