久しぶりに沈んだ会話をした帰り道。
それでも春斗は私の家の前までついてきてくれる。
「ごめんね。春斗にばっかり相談とか愚痴とか言っちゃって」
 いつもと違った春斗が気になって目をそらしながら私は空気を変えようとする。
「頼っていいって言ってるだろ。まあ励ましとかにはならないかもしれないけど、聞くことはいつだってできる。夕希が嫌じゃないならいつでも」
 先ほどとは違う優しい表情をした春斗が一瞬見えて凍っていたような背中に感覚が戻る。
「夕希」
 また呼ばれた名前に顔をあげると頬を春斗の両手が包む。
「俺は夕希のことちゃんと見てるから、目を背けずに安心してお互い目を見よう」
 春斗が頬を押さえて自分の顔を見せている。
その顔には先ほどとは明らかに違う力を持った目だった。
「俺はこのマヌケな顔も逃さず見るぞ」
 そう言って春斗は私の頬を強く押す。
そのせいで口が尖る。
自分の顔がどんな顔なのか気になって顔が火照る。
それでもその行動は私に力と元気をくれる。
「じゃあ私も春斗のこの突っ張った顔をいつでも見てるからねー」
 そう言って頬を押す春斗の頬をつねる。
口が尖っているせいで上手く言えない言葉と互いの顔に私たちは同時に笑った。
先ほどとは違う春斗の柔らかい表情が私の胸を温める。
つねっていた手を離すと春斗も私の頬から手を離す。
手を離す頃には重たい体と心が軽くなって自然と背筋が伸びる。
「じゃあな」
 春斗は私の頭に手を置いて微笑んだ。
「またね」
 離れていく春斗の手が恋しかった。
いつも入るまで見守ってくれる春斗を見てしまうと入りたくないと思ってしまう。
それでも私は頷いて春斗に背中を向けた。