春斗は私を見ない。
それは目を見ればそらして苦笑いで済ませる最近気づいた私の癖を知っているからだろう。
その話しやすい雰囲気を作るのは春斗の特技だと私は思う。
少しうつむいて考えた後、私は一度息を吐いて大きく吸った。
「親子って何なんだろう」
 一つ言葉を出すと気持ちが整理されていく。
それは言葉を話せば話すほどその速度は速くなる。
「私は笑って時には喧嘩して、それでも一緒に食事をして一緒の家に住むのが家族、親子だと思ってた」
 もう振り返っても涙は出ない。
理想の家庭を想像するとまるで自分がその中に入ったように笑いたくなる。
でも現実に戻ればそれは夢。
私はもう体験できないものだ。
「でも私には叶わない空想なのかなって少し考えてた。お父さんが私を、子供を自分の新しい家族と離したい。私の存在はあの人の中で遠いものになってる」
 考えれば考えるほど辛くて痛い事実が春斗に話すと少し棘を柔らかくする。
「家族とか親子ってそんなに簡単に崩れるのかなって思ったら悲しくなって、その原因がお父さんにあるって考えたら腹も立って。感情の整理がつかない」
 言葉と一緒に頭をよぎる記憶を首を振って払う。
言い終わったという合図を含めて私は背中を伸ばした。
「家族って簡単じゃないんだよ。親子も」
「え?」
 春斗はいつも前向きな言葉で励ますのが印象的だった。
現実味があっても説得力のある言葉。
でも今日はまっすぐ遠くを見ながら、現実だけをとった言葉を口にする。
「一つ道を外せば壁ができて、その壁を乗り越えようとせずお互いがそのままならその壁は一生なくならずに関係を壊す。努力しようと思っても現実から目を背けている間に相手が自分の存在をなくしていたらもう手遅れなのが人間なんだよ」
 少し強い風が髪をなびかせる。
そのなびく髪の間から見えた春斗の表情は言葉の鋭さとは違って、力のない目だった。