学校帰りの夕方の風が髪をなびかせる。
外の空気は涼しく柔らかかった。
その風を受け止める私の横を春斗が足をそろえて歩く。
杏夏といつものところで別れた後は春斗と二人きりになる。
だからと言って話が続かない、緊張する、という感情は生まれなかった。
「夕希」
 一度会話が落ち着いたところで春斗は私の名前を呼ぶ。
「ん?」
 春斗が急に私の名を呼ぶのは何か話したいことがあるとき。
顔を見ると正解だとわかるように真剣な顔をしている。
「また何か我慢してるだろ」
 春斗はなぜ私の心を見ているかのように気づくのだろう。
顔にも言葉にも私は出していないつもりだった。
父のあの無神経な行動。
それが私を潰そうとしている。
耐えると心が疲れ切ってしまうことを。