いつものように重い扉。
開けると最近はよく見る父の靴があった。
その中でいつもと違うのはリビングのある一階ではなく私の部屋がある二階から音がすること。
私は靴を脱いで駆け上るように急いだ。
二階を見ると私の部屋の隣の部屋が明るかった。
その部屋が明るかったのはずっと前のこと。
なぜならそこが母の部屋だったから。
母がいなくなってから照明がつくことがなかった部屋に明かりがあるのは胸を締め付け騒がせる。
恐る恐るその部屋に近づくと父がその部屋にいた。
母の部屋に父がいる。
追い出した、母を苦しめた当事者の一人がその部屋にいる。
唇を噛み締めて手を強く握りしめた。
それだけでは治まらない感情は声になる。
「何してるの……」
 その声は自分でも驚くほど低く、一つ一つに力が入っていた。
「お、夕希か。もうこの部屋も使わないから子供のために片付けようと思ってな。だけど荷物が……」
「使わなくなったのは誰のせいよ……」
 部屋を見る度、父の憎い顔を見る度、怒りという気持ちが大きくなって冷静な言葉が出てこない。
この部屋に入れるのは母だけ。
この部屋に手を出すのは許せない。
そんな気持ちを知らずに父は陽気な顔をする。
「夕希も今から部屋を片付けておくと急いで準備しないで済むぞ」
 母だけでなく、私も追い出そうとする。
本当にこれが父親なのか……
その笑みがこぼれる顔が私の横を通る。
もう目を合わせない。
誰もいなくなった部屋を眺めると強く握った拳が入り口の壁に強く当たる。
沈むことも跡もないその壁をにらみながら私は部屋に戻った。