窓際の温かさが暑さに変わったこの頃は窓際の席に座ることもなくなった。
教室の真ん中に一番近い春斗の席の周りで私たち三人は集まる。
窓から入ってくる風は温まった教室を少しだけ快適な空気にしてくれる。
その風で私は今朝を思い出す。
私の望み……
「夕希」
 杏夏の声で我に返ると、心配を隠せない表情を二人はしていた。
二人の心配する顔は見たくない。
この二人とはいつでも楽しくしていたい。
笑ってる方が楽だから。いい気分だから。
私は笑顔で二人を見る。
でもその表情は心配が深まったように感じる。
「無理しなくていいよ」
 何も言わず、それでも見守る春斗と心配を言葉にしてくれる杏夏には嘘をつけなかった。
それが頼れる相手だということを教えられる。

 どこか胸の奥から出してきた笑顔を忘れ、私は熱くなる目を閉じた。
「わからないの」
 一番最初の言葉が会話と繋がっていないことはわかっている。
でも何よりも感じていることはこの言葉だった。
「確かに昨日は傷ついて、今までの日常もその前兆のように苦しかった。でも……」
 苦しい記憶しかない。
それは当然のようだった。
それでもわからないと言えるのはあの言葉があるから。
「割り切ろうって考えたの」
 普通なら苦しいことをたくさん言いたい。
不満や怒り。悲しみ。寂しさ。
でもそれを捨てなければ私はあの家に執着してしまう。
それは今朝の言葉を妨害することになる。
だから私はこの言葉を言えるんだろう。