今までを振り返ると確かに話せる相手を離さなかったことで春斗と仲良くできた。
相手を頼ることで杏夏と絆が深まり、春斗には自分をそのまま出せている。
足りないものが何なのか。
考えても出ない答えに私はうつむく。
「ちゃんと教えてよ」
 その助言が少し怖いと感じている私の心。
聞く準備はできている。
私が息をのむとやっと声が聞こえる。
「自ら自分の気持ちを行動に移す力だよ」
 やはり理解するのに時間がかかる助言。
その私の姿を見ているように続ける。
「君は確かに僕の言うことに対して努力してくれた。でもそれは僕の提案。自分がこれからどうしていきたいか。今の君が望む生活がどんな生活なのか。そのことに向けて自分が行動するんだ」
 私が今の生活を変えたいと思う場所。
それは一つ。
家という壊れかけた家庭だ。
それを変えられる方法は私にはわからなかった。
「家のことを私がどう行動すればいいのよ。人の心も新しい命の行方も私が変えられるわけないでしょ」
 気づけば組んでいた腕を離して資料室に向かって不機嫌な声を出していた。
その行動が気にならないのは自分の頭の中が溢れるようにいっぱいだから。
「命も心も変えずに乗り切る方法はあるんだよ。それを君自身で見つけるんだ……」
 消えていく言葉に手を伸ばすが姿もない声は消えてしまう。
眉間にしわを寄せながら少し考える私。
それでも見つからない答え。
私は振り切るように鞄を持って廊下を歩き始めた。