暗い道に街灯が光を与える。
その暗い道を私は怖がる。
それでも進めるのは横に春斗という光がいるから。
「ありがとう」
 自然に出たその言葉に偽りはない。
家に帰るのは嫌だ。
でもここまで気分を回復させてくれたのは春斗だ。
「すぐ近くだから何かあったらすぐに来ていいから」
 春斗は相変わらず目が鋭く見えて言葉と比例しない。
でもそれは他の誰かが見たらという話。
私にはその目にも優しさは見える。
家の前に着くとやはり胸が騒ぐ。
それでも今はこの家に帰らなければならない。
「春斗」
「ん?」
 誰かの力が欲しかった。
一人ではない証拠が欲しかった。
「手、握ってくれない?」
 差し出す手は震えている。
それでも春斗の温かさを証拠にしたかった。
「いいよ」
 その一言は今までよりもずっと優しさに溢れ、温もりをさらに強くしてくれた。
春斗の温もりを目をつぶって感じた私は少し強くなれたような気がした。
「ありがとう」
 ゆっくり離そうとすると春斗が力を込めた。
「明日、また待ってるから」
 明日。昔の私は明日なんてどうでもよかった。
それでもこの明日という言葉が自分を保とうとしてくれてるのはきっと私の中に春斗や杏夏の存在が大きくあるから。
「うん。また明日」
 私が頷くと春斗は手を離して微笑み、小さく頷いた。
その頷きは見届けるという意味なのは言わなくてもわかっていた。
春斗に見守られながら私は玄関の扉を開けた。