作った料理をテーブルに並べると私たちは座ってその料理と向き合った。
「おいしい」
　顔に出さないが声が興奮しているのはもう感じ取れる。
私も春斗に続いて一口食べた。
久しぶりにゆっくりと作った夕食。
母が私の記憶に残したレシピ。
その味は母の料理と似ていた。
「夕希？」
　春斗に呼ばれて気づく。
頬に涙が伝っていることを。
急いで涙を拭こうとするが目の前の景色は歪んでいる。
止まらない涙を隠すように私はうつむいた。
私の顔を隠すようにおりていた髪。
その髪を春斗は耳にかける。
「夕希。どうした？」
　春斗の真剣な顔は見なくてもわかっている。
だからこそ泣いているのかもしれない。
「ごめん。何かした？」
「違うの」
　首を振りながら否定する私の中で泣いている理由はわかっている。
春斗になら今一番思っていることを言ってもいいかもしれない。
その思いで私は涙を隠すように笑った。
「久しぶりに孤独を感じない夕食を食べれて嬉しいの。いつもは一人か空気みたいにその場にいてなんの楽しみもない食事だったから」
　一つ言葉が出ると私の感情はどんどん悲しみに浸っていく。
それでも話し続けるのはきっと前を向きたいから。
「この料理、出ていったお母さんが私に教えてくれたの。ゆっくり作る余裕がないから今まで作れなかった。でも今日食べられた。そしたらお母さんのこと思い出しちゃった……」
　だんだんと弱る声。もう消えるような声だった。
その私の頭を春斗は前にもしてくれたように胸に寄せる。
「我慢して笑わなくていい」
　その言葉は私の心の扉を開く魔法のようだった。
「勇気もない。自信もない。でもお母さんに会いたい……」
　しゃくりあげて泣く私の頭を春斗はいつまでも黙って撫でていた。