名もない花のように生きる君へ

 最近は日が延びてきたとはいえ、長く話した私たちから見える空は暗かった。
「夕希、大丈夫?」
 公園の入り口で杏夏が再度私を心配して振り向く。
外が暗いと危険が増える世の中。
一人で帰る杏夏を早めに家に帰すのが当然だと思い頷いて杏夏を見送る。
「また明日学校でね」
 優しく微笑む杏夏は鞄をかけなおすと背中を向けて帰っていった。
杏夏の身を考えたら早めに別れるのが正解だった。
でも心の奥で帰ってほしくない。ずっとこのままでいたい。
そう思う自分をしまっていた。
「大丈夫じゃないんだろ」
 横から春斗が遠くなる杏夏を見ながら言った。
「北原を心配して嘘ついたんだろ」
 図星で私に春斗の言葉が刺さる。
確かに嘘をついた。本当は家になど帰りたくない。
でもこの嘘はついてもいい。ここは頼ってはいけない。
そう考えるのが普通だった。
「本当のこと言っていいぞ。北原もいないし、思ってること全部話していい」
 春斗は不器用な言い方をする。
でもその中には春斗なりの優しさがある。
だから私は言葉を出せるのだろう。
「帰りたくない……」
 手をギュッと力強く握ると先ほどよりも強い感情がこみあげてくる。
「あんな家に居たくない。このままあの家に帰らずにいたい」
 うつむく私の目には微かに震える手が見える。
「じゃ、寝るまで俺の家にいるか」
「え?」
「さすがに男が住む家に泊まるのは難しいから避難ってことで夜まで俺の家にいて帰るときには俺が送るよ」
 耳を疑うような話で目を丸くしたまま私は戸惑う。
「でも家族とかが」
「母さんと二人暮らしで母さん今日は夜勤だから。俺と二人が心配なら無理せず断っていいよ」
 真剣ででも包んでくれる微笑みに私は頷いた。