玄関の扉が閉まった瞬間、風が私を笑うように音を立てて吹いてくる。
玄関の前で立ち止まる私の感情は無に等しかった。
今にも消えてしまいそうな感覚を覚えた。
その消えてしまいそうな感覚が急に怖くなって私は急いで家の門を開けた。
その瞬間私の目は大きく開く。
そこには一緒に帰ったはずの春斗と杏夏がいた。
春斗と杏夏は制服姿のままで別れた時と全く変わらない。
二人はまるで私が出てくるのをわかっていたように平然とそこに立っている。
「どうして……」
 壁に寄りかかっていた春斗が壁から離れ私と向かい合う。
その前に立っている杏夏は私に手を広げて見せる。
「おいで」
 優しい声。私の心に救いの手を伸ばしてくれる落ち着いた声。
それだけじゃない。
まるで母のような温かい表情で私を受け止めてくれる。
杏夏に包まれた時、私は心を縛り付けていた紐が取れるように胸がうずいた。
そのうずきとともに声を出しながら目から涙をこぼした。
ゆっくりさすってくれる杏夏の温かさがより私を開放してくれた。