リビングに渋々入ると気味が悪いほど笑っている二人。
もう言いたいことはわかっている。
それでも聞かなければならないということがどれほど面倒で嫌なことか。
二人が並ぶ目の前の椅子に私は座らされた。
「夕希、俺はカナと結婚することにした」
 知っている。
それでもその言葉は言ってはいけない。
カナという名前も私は今思い出した。
それでも漢字はわからない。
興味などなかったのだから。
「実はな……」
 父の付け足した一言がきっと嫌な予感を私に教えていたのだろう。
聞きたくない。その思いは儚く消える。
「カナの中に子供がいるんだ」
 目が熱くなる。鼻の奥で何かが詰まる。
それでも知らずに笑う二人。
その笑顔は仮面のように不気味だった。
「それでな子供もいたら夕希も自由にならないだろうから俺の実家に話をつけて夕希はそっちに行った方がいいとカナと話していたんだ」
 一瞬で私は暗闇に落ちていく。
どうして、私はどうしてこんな運命を迎えなきゃならないの……
口が歪む。手が震える。
耐えられない……
もう目をしっかり開けることはできなかった。
私は笑う二人の前から走り去った。