空が暗くなり、涼しい風が吹き始めた。
話を終えた後、杏夏は優しい表情で手を振って別れた。
最近はいつも家まで送ってくれる春斗と一緒に家まで歩いた。
家に着くのは寂しい。
悲しい思いをする。
それでも帰らなければならないことはわかっている。
だから春斗の前でも表情に出てしまうのは気づいていることだった。
「夕希」
 春斗の声は意識が遠くなりそうな私を引き戻す。
「俺は夕希が呼ぶならいつでも夕希に会いに来るから」
 春斗の力強い言葉は私の大きく揺れる心を包む。
前にはわからなかった春斗の表情も今はわかる。
その春斗の言葉が鋭くない優しい言葉だということも今では誰よりも理解しているような気がしている。
「いつでも?」
 わかっているはずなのに確認したくなる私。
それでも春斗は強く頷く。
「そう。だから……」
 私の頭を春斗は優しく自分の胸に寄せる。
春斗の表情を見ていた私。
その景色が変わって体が熱くなるが、すぐに受け入れられるのは春斗の温かさが伝わってくるから。
「だから辛くなったら言え。今みたいに胸を貸すことはできるから」
 不器用だと思っていた春斗がいつも辛い時にそばにいてくれる。
「ありがとう」
 春斗の温かさを少しの間感じて私は春斗の胸から離れた。
「じゃあな」
「またね」
 春斗と離れるのは寂しい。
でも今日、自分の思いを伝えられたおかげで私は少し前に進めたような気がした。
でもそれをかき消してしまうような現実を私は見た……