気づけば杏夏が私の手を握っていた。
その手は温もりのある綺麗な手。
「夕希」
 杏夏が真剣な顔つきのまま私の名前を呼ぶ。
「夕希に罪はないよ。夕希は夕希らしくしてた方がいい」
 握る手に力が入ったのを感じて杏夏の真剣さが身をもって感じられた。
春斗も杏夏の後ろで私に頷いて見せる。
「ありがとう。二人とも」
 二人の安心感のある言動が私の悲しさを止めるようだった。
おかげで涙を流すことなく言えたのが私にとっていい時間だったのかもしれない。
「やっと聞けたな」
「え?」
「ホント。やっと言ってくれたね」
 二人は私の肩の荷が軽くなったのをわかったように微笑んだ。
その言葉を理解できない私は首をかしげて二人を見る。
「どういうこと?」
 杏夏は一度春斗を見てお互いの思いを通わせたような表情をして私を見る。
「夕希に悩みがあるのは見ててわかってた。」
 驚いて私は目を丸くする。
でもまた普通の顔に戻るのは二人が私のことをわかってくれていたから。
「でも、悩みは自分から言わないと気持ちが軽くならないし、遠慮だってするでしょ?」
 杏夏の言うことは説得力のある言葉ばかり。
手を握りながら微笑んで話してくれる杏夏はもう手放せない存在だとわかっていた。
「言ってくれてよかった」
 杏夏の優しい眼差しと春斗の安心させてくれる表情で私は悲しい思いを告げているのに心のどこかで温まった感情を生み出してくれていた。