杏夏が帰った後、私たちはいつも通り会話をしながら過ごした。
私と春斗の会話の間に雷の音が響き、窓から見える景色は暗かった。
暗い空に重なって雷の音が大きくなる。
「今日は先生に言って早く帰るか。雷で帰れなくなるの困るし」
 座って腕をカウンターに乗っけていた春斗は憂鬱そうに立ちあがる。
「そうだね」
 図書室は本が傷まないように黒いカーテンがつけられている。
カーテンが閉まると蛍光灯の光しか私の目に入ってこない。
それでも図書室を出るにはこの作業をしなくてはならない。
暗いのが怖い私はカーテンを全て閉めると焦るようにカウンターに戻ろうとした。
その時、目の前が真っ暗になった。停電だ……
闇が襲ってくる。
「夕希、大丈夫か?」
 真っ暗の中春斗が横に来ている。
しゃがみこんで苦しい胸を押さえる私は闇を恐れて何も考えられない。
「嫌だ……」
「え?」
 春斗がいることも忘れてこの暗闇に全てを持っていかれるよう。
「現実に引き込まないで。闇にのまれたくない!」
 ただ真っ暗になった図書室で息を荒くして手に雫が落ちる。
横にいた温もりが一度消えてから少し目の前が明るくなって今度は手に温かさを感じる。
「夕希、立てるか?」
 春斗が片手で私の手を握り、もう片方の手は私の肩に乗せた。
力のない私を引っ張ってでカーテンの開いた窓に春斗が導く。
窓に近づくと空は暗くとも真っ暗ではない。
少し明るさを自分の目に入れて荒くなっていた息を戻した。