杏夏の笑顔は私にも勇気をくれるように温かい表情だった。
その温かさが一瞬で消えてしまうことを恨む私。
重い扉を開けると見える玄関にはもうため息も出ないほど見慣れていた。
最近帰りが遅い私に代わって父の靴が先に玄関に並んでいる。
母と一緒にいない父など見たくない。
ましてや見知らぬ人が横にいると考えると現実が恐ろしく感じる。
自分の部屋が明るくないと落ち着かなくなったのは母がいなくなって父があの人を連れてきてから。
その時から闇にのまれそうな気分になるため暗い所に一人でいるのが怖かった。
すぐに電気をつけて息を吐くとやっと気持ちの高まりが抑えられていく。
「どうしたらいいの……」
 小さくこの部屋に消えていく声が記憶を呼び覚ます。
あの時あの声が言っていた。
人を頼ることも大切だと。
その頼ることが難しいと思う私は何も言わず、何も考えず目の前に広がる部屋を見ていた。