杏夏のことで不安だらけだった私を春斗が笑わせていた時、公園の入り口に人の気配を感じて私たちは同時にその方向を見た。
そこには息を切らしているのか肩を上下に揺らす杏夏の姿があった。
「杏夏……」
　表情を見る前に杏夏は私の胸に飛び込んだ。
「言えたよ」
　走ってきたのか杏夏の言葉は間に息が挟まる。
「自分の気持ち、言えたよ」
　体を離して私の顔を見た杏夏を見て私の中に安心が生まれた。
杏夏は後悔のない澄んだ表情をしていた。
私たちが座っていたベンチに腰を下ろしてから杏夏は全てを教えてくれた。
杏夏に何も言わずに去っていったのは悲しい顔を見たくなかったから。
長い間杏夏と会っていなかったことによって気づいた杏夏の大切さを伝えるために学校の前に立っていたこと。
そして杏夏も自分の想いを打ち明けられたこと。
「よかったな」
　全てを聞いた後、誰よりも早く口を開いたのは春斗だった。
私もその春斗の言葉に合わせて大きく頷くと杏夏は今までの重たい気持ちから軽くなった気持ちを表情に出して笑った。